16話「断たれた音」

The Most Dangerous Match / 1973

チェスのチャンピオンである「エメット・クレイトン」だが、かつてのチャンピオン「トムリン・デューディック」氏が復帰し、自分に挑戦して来たことに恐怖し、夢にうなされる有様。対決前夜にレストランで二人きりで勝負するが、あえなく敗北したクレイトンはデューデックの殺害を決意します。密会対決での敗北に、二人の実力差を思い知ったためです。

最高級の犯人役:ローレンス・ハーヴェイ

ローレンス・ハーヴェイ犯人役のローレンス・ハーヴェイは、全コロンボ作品中最高級の存在感を見せてくれました。作品としてもかなり好きです。短期間に犯行を計画したクレイトンですが、そこはやはり抜群の記憶力に裏付けされています。

しかし、それを上回るコロンボ警部の「着眼点」には恐れ入ります。「便せんでなくメモ用紙」「入れ歯なのに歯ブラシ」など、被害者をよく知らなければ気がつかない点を見逃しません。さらに「ボールペンのインク」への着眼は流石だと言えます。

卑怯な勝負師

冒頭の夢のシーンでもわかるように、クレイトンは自分の今の地位「チェスのチャンピオン」からの陥落を非常に恐れ、半ばノイローゼ気味になっています。自分は将棋が好きで名人戦など良くテレビで観戦するのですが、勝負ごとには必ず勝者と敗者ができるわけで、負けた時の潔さも含めた品格を問われる分野でもあると思います。クレイトンはそれを逸脱していました。今回の挑戦者トムリン・デューディック氏は、好敵手とて堂々と闘った結果に破れたとしても十分納得できた相手であったはずです。

頭が良く、自信過剰な犯人との対決劇

ストーリー展開の中で、しつこいコロンボ警部と頭脳明晰な犯人とのやりとりも、刑事コロンボシリーズ中で最高評価に近い醍醐味を与えてくれました。それにしてもクレイトン氏はもちろん相当な頭脳の持ち主ではありますが、棋士としてはかなり「短気で怒りっぽい」性格ですね。将棋などのテレビ中継を見る限り、戦いの後はどちらが勝者・敗者であるか見分けられないこともあるほど、棋士はあまり本当の感情を出さないものですが、これは日本人特有なのでしょうか。

逆・筆記用具忘れ!

普段筆記用具を忘れて人から借りる癖があるコロンボですが、今回は何と、記憶力抜群のクレイトンがボールペンを忘れ、それをコロンボが本人に届けます。しかも…こっそり「試し書き」をしてから返すところが流石。
→コロンボはよく「筆記用具を忘れる」件

名台詞「縦から見ても、横から見ても」

この話で興味深い展開となっている最大の要因は「殺そうと思ったが失敗した」点につきるかと思います。なぜ失敗したか?はラストシーンに集約されます。解決編では、決定的な物的証拠を見せるには至りませんが「縦から見ても、横から見ても、耳の聴こえない人物が犯人である」という、コロンボの警部の名台詞で結ばせたことで、この作品の品格を決定的に高めてくれていると感心します。

元チェス王座のトムリン・デューディック

ジャック・クリューシェントムリン・デューディック役のジャック・クリューシェンは最高級の被害者役を演じてくれました。勝負師としての厳しさと人間としての弱さ(御馳走好き)、それでいて茶目っ気もあります。対戦前夜の非公式戦の後、落ち込むクレイトンの部屋から去る時の仕草に「それほど落ち込まなくても…」という思いも見られます。これは、デューディックはクレイトンほど「勝つことが全て」とは感じていないことを表現しているのでしょうか?

俳優ジャック・クリューシェンはカナダ人

調べてみますとジャック・クリューシェン(デューディック役)はカナダ人(ロシア系移民)のようです。かなり多くの映画やテレビドラマに出演しており、大草原の小さな家・シーズン8の6話「あこがれの英雄」で、サーカス一座の団長「偉大なガンビー二(Gambini the Great)」役を演じています。「魔術王サンティーニ」みたいですね。

デューディック氏一行はチェコ人?

ロイド・ボックナーデューディック氏はチェコ人(当時の国名ではチェコスロバキア)であったと何かの文献で読みました。当時の世界情勢で「東側の国名」をあえて台詞に入れなかったのでしょうね。側近(コーチと呼ばれていた)ベロスキー氏(ロイド・ボックナー)の「階級」発言などから、当時の共産主義国の厳格な姿勢も感じ取れて面白かったです。ロイド・ボックナーは、コロンボと同時代のテレビドラマ「警部マクロード」にも出演しています。

元婚約者の名前が不可解

ハイジ・ブリュールクレイトンの元婚約者はデューディック氏と同じ母国語の女性だということですが、名前が「リンダ・ロビンソン」ってのが‥どうも。ひっかかりますな。英語も堪能な感じですよね?でも、デューディックに代筆してもらう必要があるので‥これ以上は突っ込みません(笑)演じたのは「ハイジ・ブリュール」でドイツ人の歌手・女優さんです。

同行する医師

マティアス・レイツデューディック氏の健康を管理するアントン医師は俳優「マティアス・レイツ」。あまりセリフなどはないのですが、顔で心情を表現しているように見え、なかなか良い感じのキャラクターでした。

ダグラス刑事

デューディックのホテルの部屋でコロンボ警部の補佐をするダグラス刑事は、ポール・ジェンキンス。誇り高きコーチのベロスキー氏から見下されていました(笑)なかなか刑事らしい風貌で、好きなキャラクターです。

フランス料理店のオーナー

オスカー・ベレギ・ジュニアデューディックとクレイトンの二人が密会するレストランのオーナーは俳優「オスカー・ベレギ・ジュニア」この人こそ、フランス人ではなく東欧のハンガリー出身。ちなみにベロスキーのロイド・ボックナーはカナダ出身。

塩とコショウで始まったテーブルクロス・チェス

このレストランで、デューディックがまず塩の瓶を置き、クレイトンがコショウの瓶で応戦。これはデューディック先手・白番、クレイトンが後手・黒番を意味しています。日本人だと将棋や囲碁で先手・黒番、後手・白番の方が馴染みがありますよね。クレイトンが41手で投了(降参)というデューディック・メモが出てきてしまい、もっと追求されたら嫌だったでしょう。(加筆:2022.1.21)

獣医ドクター・ベンソンが可愛い

マイケル・フォックス「愛犬ドッグ」を診てくれる獣医のドクター・ベンソン(俳優:マイケル・フォックス*Michael J. Foxではないですよ)は、今回も良い味を出してくれています。10話の「黒のエチュード」ではクラシック好き、今回は「チェッカー(バックギャモンではない)」でコロンボ警部と遊んでいます。参照:刑事コロンボの脇役俳優

赤いヘルメットが似合う男

ジョン・フィネガン赤い(オレンジ)ヘルメットが似合う男、それは俳優「ジョン・フィネガン」。9話「パイルD-3の壁」に引き続き、今回もヘルメット姿が見られましたね、ちなみに今回は新しい綺麗なヘルメット。この後は刑事に転職するようです(笑)

デューディックのホテルの記者

マニュエル・デピナデューディックのホテル(Valley Plaza Hotel)でチェス対決の取材をする記者の一人。長身で色黒の人は「マニュエル・デピナ」。この人は21話「意識の下の映像」で探偵、26話「自縛の紐」で警察の写真係でも登場します。

エキストラ俳優ゲーリー・ライト

ゲーリー・ライト前半のデューディック氏の客室で見張っている警察官は、はエキストラ俳優「ゲーリー・ライト」。この人は刑事コロンボに少なくとも7回も出演している常連さんです。今回の出番はあまり目立っておりませんで、探すのに苦労しました。

エキストラ俳優ボブ・ホークス

ボブ・ホークス前半のチェスの対戦や、後半のデューディックを偲ぶイベントに居る赤いジャケットのスタッフ(おそらくウエーター)は、エキストラ俳優「ボブ・ホークス」。この人は刑事コロンボに10回も出演している常連さんです。仕事をサボって対局に見入っています。赤い服を着ているので結構目立ちますね。

病院の女性看護師

アビゲール・シェルトンま〜これはほんのささいな画像です。病院でデューディックの容態について語る女性女性看護師(ナース)は、女優「アビゲール・シェルトン」。なんとなく強いインパクトを残しました(笑)それだけ。

これがハーヴェイの遺作となった

ローレンス・ハーヴェイは胃癌が悪化していて、刑事コロンボの撮影中もかなり体調が悪く、食事も喉を通らない様子でした。そして1973年11月25日に亡くなりました(享年45歳)。奇しくも日本では、その夜にNHKで「断たれた音」が放送されたそうです。調べてみると彼はリトアニア出身ということで、むしろこっちの方が東側の人なのかもしれません。

彼には「ドミノ・ハーヴェイ」という実娘がおり、2005年の映画「ドミノ」で実名の主人公(演:キーラ・ナイトレイ)として描かれています。ストーリーも幼くして俳優の父が急死したあらすじ。しかしドミノ・ハーヴェイは、この映画完成の直前に35歳の若さでこの世を去っています。なんとも薄命な父娘‥。

第2~第3シーズンの不思議なピアノ曲

YouTube「不思議なピアノ曲」刑事コロンボの第2~第3シーズン「黒のエチュード」「偶像のレクイエム」「絶たれた音」「毒のある花」などで多用された「不思議な雰囲気を持ったピアノ曲」を再現しています。音楽もお好きな方は、こちらもご覧ください。(*ご注意:YouTubeへのリンクは音が出ます!)

デューディックが運び込まれた病院

デューディックが運び込まれた病院は看板が大写しされるので、「バレー・サークル病院(16a)」だと分かります。当時からこの名称だったかは不明ですが、現在は「バレー・プレスビティリアン病院(16b)」として現存します。
バレー・プレスビティリアン病院(GoogleMaps)
バレー・サークル病院バレー・プレスビティリアン病院16a16b

病棟のエレベーターが同じ!

15話「溶ける糸」と、16話「断たれた音」の病棟のエレベーターは同じでした。廊下の天井の照明の配列が似ていますが、色が違って見えます。内装の配色も、溶ける糸は地味で断たれた音はかなり派手なので、同じ病院かどうかは、定かではありません。。

溶ける糸のエレベーター15

断たれた音のエレベーター16

溶ける糸のエレベーター15

断たれた音のエレベーター16

監督:エドワード・M・エイブラムス
脚本:ジャクソン・ギリス
音楽:ディック・デ・ベネディクティス

エメット・クレイトン:ローレンス・ハーヴェイ(声:小笠原良知)
トムリン・デューディック:ジャック・クリューシェン(声:松村彦次郎)
ベロスキー:ロイド・ボックナー(声:宮田光)
リンダ・ロビンソン:ハイジ・ブリュール
獣医ドクター・ベンソン:マイケル・フォックス(声:今西正男)
アントン医師:マティアス・レイツ
粉砕機の作業員:ジョン・フィネガン
ダグラス刑事:ポール・ジェンキンス(声:若本規夫)
警察官:ゲーリー・ライト
ホテルのイベント会場のウエーター:ボブ・ホークス

加筆:2023年9月19日