伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)は細密な動植物の表現で有名な江戸時代の日本画家です。僕の父親が書道家をしていて、彼の書棚に書家や日本画家の作品集が納められていた。おそらくその中に「伊藤若冲」も有ったのではないか…。(父親は有名な書道家ではなく、師範ではあるが子供に教える程度)
これまでの僕の認識では、恐ろしく細密で、ほとんど奇人とも言えるほど描写にこだわった画家。「鶏」「像」「魚」の絵がとても印象的だということ。それらの奇想天外な魅力を十分理解していました。
この春にNHK BSプレミアムで放送された「若冲ミラクルワールド」の第2回でも特集された「若冲の水墨画」。今回の「極上美の饗宴」でも、若冲の水墨画にスポットを当てていただき、若冲の世界を堪能させてもらいました。
僕が特に注目したのはジョー・プライス氏所蔵の「鶴図屏風」。計12枚の鶴の絵が連なる屏風。潔い筆さばきと、大胆な構図による連作で、その表現力とレイアウトがあまりに素晴らしい…。思わずため息が出ます。1枚の画像を題材として、少し語ってみます。
まず、鶴のボディの表現で、卵のような楕円形で全体をつかんでいますが、その中には1本の線も描かれません。尾羽の部分を真っ黒な墨で締めて、細くて固そうな脚が真っ直ぐに降りています。脚の輪郭は正確な点線。それを汚すように地面の曲線が交差している。
二羽の鶴は、愛し合っているのか…お互いを意識しているように見える。手前の鶴の顔はほとんどが自分の背中で隠れ、クチバシの位置は明らかに実際よりも離れて描かれている。尾羽の黒は、薄い部分を伴っているが、これは塗り残しで羽の薄い色を表現している。
おそらく見える限りでの「迷いが一切ない」。これは他の日本画家にも共通するのかも知れませんが、凄すぎて絶句します。僕は今日、雑誌広告のデザインをしたのですが、何回もやり直してフィニッシュまでたどり着きました。
もっと他の絵を見てみたい人は「伊藤若冲 鶴図屏風」で画像検索すると、連作の全てを見ることができます。