Murder by the Book / 1971
カメラワークやライティングがスピルバーグ的?
演出が若き日のスピルバーグ監督というのは有名ですね。絵作りという着眼点で見ると、他の作品と大きな違いを感じます。まずは、構図の大胆さです。俳優同士の顔がくっつきそうになる程、近くで会話していたり、女優の横顔のシルエットでその場面を深く印象づけたりしています。全体的に画面が暗めなのも特長だと思います。特に夜のシーンでは、不気味な程に室内を暗くし、手前の人物の影が話し相手に重なって不気味な効果を出しています。
やはりこのカメラワークやライティング(照明)は、この1回きりで良かった…とも感じます。そこばっかり気になってしまい、本筋がおろそかになっているように見えてきます。
書けない作家ケン・フランクリン
犯人の作家ケン・フランクリン(
ジャック・キャシディ)が共著の相棒作家、ジム・フェリス(マーティン・ミルナー)を殺害。動機は、ジムがケンとのコンビ解消を言い出したことにあります。実はケンは小説が全く書けないのです。
人気小説「メルビル夫人」シリーズ
これまでに発表した人気小説「メルビル夫人」シリーズは、すべてが相棒のジムによる作品だというのです。私はものを創る立場なので、このような生き方は理解し難いですね。小説が書けない作家を演じ続けるより、1作でも優れた小説を書く努力をすべきだった。
ウソが本当に思えてくる
この事件の背景には「ウソをつき続けていると、そのうち本当になってしまう」という教訓が見えてきました。ケンは主に、インタビューやPRを引き受け、賞賛を浴びているうちに、いつしか「自分が本物の作家である」と思い込むようになったのかも。(写真は美人インタビュアー:リネット・メッティ)
ジャック・キャシディ
バーバラ・コルビーは迫真の演技
第二殺人の被害者ラサンカ夫人(バーバラ・コルビー)は迫真の演技でした。この後のコロンボ作品にも、犯行を見破る→恐喝→殺される という人が多く出て来ます。やはり金は人生を豊かにするものと考えてしまうのでしょうね。15000ドルとは当時の日本円でたったの540万円相当(2021年では約1,700万円弱)‥。それで命を落としたわけです。
ここ一番でセクシーなラサンカ夫人
ケン・フランクリンを店に招いた夜(命を落とした夜)、彼女は昼はレモンイエローの服だったのですが、夜はセクシーな赤のドレスに着替えています。やっぱり相当舞い上がっていたと思われます。
ジムの奥様ジョアンナ
被害者ジムの妻ジョアンナはローズマリー・フォーサイス。派手な感じの女性ではなく、真面目で堅実な男性に惹かれるタイプなのでしょう。ジムとの馴れ初めを回想するシーンなど、良い感じですね。
劇場でケンと一緒にいた美女
劇場で連れていたスーパーモデル並みの美女はアニトラ・フォード。この後お食事もご一緒のはずだったのに、ラサンカ夫人に阻まれてしまいました。ところで彼女が着ていたドレスは、2話
「死者の身代金」のレスリーが自宅で着ていたナイトドレスと同じです!(2024年ブログゲストさん情報)
ケンの家の家政婦
ケンはプレイボーイですが、自宅の家政婦さんは地味なおばさんだという賢明さも持っています。(笑)この女優さんは「エリザベス・ハロワー」で後の10話「
黒のエチュード」の南カリフォルニア楽団の理事の役で再登場します。
バーニー・クビー
気のいい感じの生命保険屋のマイク・タッカーは、俳優バーニー・クビー。この人は25話
「権力の墓穴」のジャニス・コールドウェルの葬儀屋「明朝8時半までは、閉めさせていただきます」の人と同一人物です。
ホット・ドッグの屋台
それは良いのですけれど、生命保険屋がこのコロンボ警部とホット・ドッグの屋台で会うシーンで、「屋台がけっこうリアルなホットッ・ドッグの形をしている」のが面白いです。
取調室の警官
ラストシーンのケンのオフィスで彼を連行する警官警官はエキストラ俳優の「マーク・ラッセル」で1話
「殺人処方箋」でトミーの取調室の警官、4話
「指輪の爪あと」ではブリマーの部下の探偵役で登場しています。目立った仕事は一度もないのに、名前がクレジットされている俳優さんです。
邦題の「構想の死角」について
仕事柄(笑)毎晩のようにネットでコロンボ情報を調べているわけですが、「高層の死角」という森村誠一さんの推理小説が存在します。1969年に出版されました。この「構想の死角」の2年前です。第15回江戸川乱歩賞も受賞している有名な小説です。何か関連性があるのかな…。
**これより数行は妄想的加筆:2021年2月
深く考えてみると、とても面白い。
決着の付け方に「スカっとした切れ味」がなかったというご意見が多いです。コロンボから第二殺人のお粗末さを指摘されたケンは、第一殺人の優れたアイデアも自分によるものであると主張し引き換えに罪を認めました。これは見ての通り。
ジムの「見逃し」と「うろ覚え」。
ジムは作家としての推理力に非常に長けています。冒頭シーンで銃を構えたケンを見て「手袋」「引金」「空のシリンダー」などを一目で見極めました。なのに殺された時は「手袋をしている」「ソファの上に不自然なビニール」などを見逃しています。しかも車中で「なんだか嫌な気分だな、昔ここらに来たような‥」とも言っていて、どうやら以前ケンから聞かされた殺害方法のヒントを思い出した様子でした。
さて、ジョアンナも初動捜査で警察が来た時に「主人が書いた小説でこのようなトリックがあった」と言っていますが、実際には小説には採用されていません。でもジョアンナやジムの頭にはケンのアイデアの記憶が薄っすら残っていました。
印刷物はコロンボが捏造した証拠?
コロンボは解決シーンで、裏面に第一殺人のトリックがズバリ書かれた印刷物を取り出し、「メルビル夫人用完全犯罪のトリック」として文面を読み上げます。でもこれは今日、オフィスでコロンボが発見したとは考えにくいです。警察が初動捜査で見逃すとは思えません。これはコロンボが書いた偽の証拠かのかも‥。
この殺人劇こそ、ケンが書き上げた傑作。
そしてもしも、これがジム本人が書いたのなら、彼は殺される直前に気づくはず。ケンが5年前に考えた本当のアイデアとは「ジャックとジルは山へ行き、一人は死体で戻る。さてそのトリックは‥」程度の、そう、割と稚拙なアイデア書きで、肝心のトリックは思いつかなかったのかも。それに対し今回の第一殺人のアイデアやトリックは、紛れもなくケンが書き上げた最高傑作だったかもしれません。
掟破りの‥セリフ添削。
ぼろんこがケン・フランクリンのセリフを少し書き換えてみます。コロンボが印刷物のメモを読み上げ、それを止めたケン「そりゃデタラメだよ。それはジムが書いたものじゃない。初めの殺人トリックは、確かに僕がジムを殺すために考えたものだ。どうだね?傑作だろ。僕にだってメルビル夫人は書けるのさ。」THE END.
**2021年の加筆ここまで
ケン・フランクリン邸はエリック・ワーグナー邸
ケン・フランクリン邸は12話「アリバイのダイヤル」のエリック・ワーグナー邸としても登場します。(スタール邸だと勘違いしていましたが別の家でした)
エアオールウェイの豪邸
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:スティーブン・ボチコ
ケン・フランクリン:ジャック・キャシディ(声:田口計)
リリー・ラ・サンカ:バーバラ・コルビー(声:林洋子)
ジム・フェリス:マーティン・ミルナー(声:堀勝之祐)
ジョアンナ:ローズマリー・フォーサイス(声:野口ふみえ)
生命保険屋:バーニー・クビー
劇場の女性:アニトラ・フォード
劇場の婦人:エセルレッド・レオポルド
劇場の老婦人:レオダ・リチャーズ
レポーター:リネット・メティ
運送屋:ジャック・グリフィン
家政婦:エリザベス・ハロワー
警察官:マーク・ラッセル
加筆:2024年11月4日
刑事コロンボマップ