Death Lends a Hand / 1971
刑事コロンボらしさが確立した初期の傑作「指輪の爪あと」
作品として素晴らしいです。成功を収めた探偵社の社長ブリマー「ロバート・カルプ」のキャラクターも印象的。成功者が調子に乗りすぎて足を踏み外して一気に転落するというシナリオも、コロンボ作品らしくて好きです。「計画殺人ではない」という点ではイレギュラー的な展開を見せます。
コロンボ警部も負けていませんでした。
同業者(事件捜査)による犯罪のエピソードは他にも例がありますが、今回は成功をおさめた探偵です。一見してコロンボ警部を見下し、小馬鹿にするブリマーに対し「この手相は成功しそうでいて、失敗しそうな性格」と、言い返す場面は見逃せません。
運命論者と手相見。
2021年の再放送でこの「運命論者と手相見」のつながりが腑に落ちました。コロンボ警部は死体発見現場で、ケニカット夫人の頬に傷を発見します。翌日ケニカット邸で初めてブリマーに会った時、彼の大きな指輪を発見し、傷が「指輪の爪あと」の可能性がある‥とピンと来ています。それで少し意味深に、「目の前にぱっと灯りがついた気分」「幸先がいい」「ついている」と言っています。そしてそれを「手相見」につなげ、さりげなくブリマーの指輪を観察しているのです。シーンを見直しますとケニカット氏は「右手」、ブリマー氏は「左手」の手相を見ています。すでに‥左利きで左指に指輪を大きな指輪をしている者がバックハンドで殴った可能性が高いと睨んでいる!(加筆:202110月)
ラストシーンでコロンボ警部は「運命なんて信じない」とも言っています。これは手相見が「小芝居」であることも告白しているのです。だから「ケニカット夫人はコンタクトレンズを落としていない」「運良く車が故障したのではない」‥ただし、あの時ブリマーが「のこのこ」自分の前に現れたこと、これは実に運が良かった‥というオチですね。(加筆:202110月)
二つのレンズで別の場面を描写
殺人シーンから隠蔽作業の表現で、犯人役ロバート・カルプのサングラスのレンズに映り込みを利用したのは、とても面白いです。左右のレンズで別々の場面を映し出し、スリリングに仕上げています。ちなみに6話
「二枚のドガの絵」では犯行シーンで「ガ~ン、ガ~ン」みたいな音楽とともに画面が揺れていました。(笑)
ロバート・カルプの憎まれ役は最高
俳優
ロバート・カルプは他のコロンボ作品でも見ることができますが、この「指輪の爪あと」のブリマー氏の
「傲慢」「短気」「高圧的」「インテリ肌」は格別です。特に短気な性格は、ストーリーのいろいろな場所で効果的に描写されています。
ロバート・カルプが毎回同じファッションをしている件
相手の弱みにつけ込んだことが、自分の命取りになる…。
選挙に有力な情報を教えろとブリマーに脅迫されたケニカット(パトリシア・クローリー)夫人が、開き直ってブリマーを脅迫仕返すのはグッドな設定です。
「それだけはいけません、奥さん」「探偵事務所をここまでに築き上げるのにどれほど苦労をしたか…」というブリマーの本音が出ていました。
殺人ではなく傷害致死?
3話の「構想の死角」では「脅迫された相手を殺してしまう」のですが、この作品では、その逆展開をやっています。夫婦関係は一つや二つの失敗で壊れないもの、自分は正直にすべてを主人に話す…と開き直られて逆上して殺害に及ぶのです。しかしよく考えてみると、これは「殺人」ではなく「傷害致死」でしょうか?「殺す気はなかった…」と言っていますしね。
相手の破滅と引き換えに利益を得ようとする発想は、自分にも最大のリスクを発生させるという教訓を感じます。今回ケニカット夫人は利益ではなく復讐の意図でブリマーに逆襲しますが、相手に逃げ道を示すことを考えつけば、命は落とさなかったことでしょう。
ブリマーはコロンボの思い通りに動かされている…
最後は犯人に罠をしかけるパターンで解決を迎えますが、その過程で徐々に犯人を精神的に追いつめて行く手法も見逃せないですね。その中でも、コロンボに示唆され「自宅でコンタクトレンズを探している」シーンはこっけいです。台詞にはありませんが「そうか、クルマの中だ!」と気付いて、修理工場に忍び込むのですが、全てコロンボ警部の「シナリオ通りに動かされている」というわけでした。
原題の「death lends a hand」は乱暴な直訳で「死は手伝います」。最初はピンと来ない気がしましたが、ブリマーが事件捜査に手を貸す振りをしてコロンボに接近したことや、決め手となった「コンタクトレンズ(Lens)」をひっかけたものと思われ、興味深いものだと思えます。
レイ・ミランド
殺害されたレノア・ケニカットのご主人アーサー・ケニカットは
レイ・ミランド[Ray Milland]で後の11話
「悪の温室」で犯人のジャービス・グッドウィン(今回とは風貌が異なる:笑)を好演する名優です。どちらも流石の演技でしてコロンボファンの心を掴んでいます。
オスカー俳優レイ・ミランド
1945年の映画「失われた週末」ではアカデミー主演男優賞を受賞しています。まだ38歳の若々しいレイ・ミランドに会えますよ。Amazon Prime VideoなどのVODで見られる場合もありますので、ぜひチャレンジしみてください。
ギル・メレの音楽
ブリマーがケニカット夫人を死なせてしまってから死体を捨てに行くシーンのBGMに軽快なジャズ音楽が流れます。これはジャズ音楽家「ギル・メレ(Gil Mellé)」によるものです。それに自動車工場のエンディングシーンのBGMもギル・メレ。この曲は、なんと9話「パイルD-3の壁」のエンディングシーンでも同じように使われているの、気づいてました?
ギル・メレの音楽はこの他、5話「ホリスター将軍のコレクション」 、8話「死の方程式」などにも使われています。
ケニカット邸は映画「ゴッドファーザー」等にも登場
アーサー・ケニカット邸は、LAでも有名な豪邸「通称ビバリー・ハウス」で、皆さんご存知の映画「ゴッドファーザー」や「ボディーガード」にも登場していることが判明しました。ぜひご覧ください。加筆:2023年12月30日
「指輪の爪あと」のケニカット邸
3年ぶりに本作品を見て、印象が多少変わりました
2009年にNHK BS2(当時)で再放送されたシリーズで、本作品と再会しました。その頃は、1話より順に放送されていなかった記憶があります。
加筆:2012年6月4日にAXNミステリーで再放送されました。それを見ながら書いています。
まず第一に、ブリマー氏は当時感じたほど「高圧的」ではありませんでした。その後の作品「権力の墓穴:ハルプリン次長」「4時02分の銃声:フィールディング・チェイス」などの豪傑を見ましたので(笑)。ブリマー氏は「威張り腐っている」感じより、むしろ「自分をやや謙遜しつつ」「猫なで声ですり寄ってきて」「相手の隙を狙っている」ように映りました。
またブリマーは、ケニカット氏への体面上ではコロンボ警部を小馬鹿にしていますが、実は会う前から警部を「切れ者」だと気付いています。警察署長にコロンボについて下調べをしているのです。初対面の時も「ゴルフバッグ」を発見され先制パンチを喰らいました。
本当に隙・無駄の無い作品
○白バイに停められるシーンでの会話→免許の書き換え
○出口を間違える→ゴルフバッグの発見
○客の秘密を喋りそうな部下を激怒→関係した部下を外す・短気な性格を引き出す
○犯人の逮捕をほのめかす→自動車修理工場へ出向かせる
など、すべてのシーン・台詞がストーリー展開に重要な役割を果たしていて、展開も速く非常にスリリングです。またメガネの映り込みのシーンは、思ったよりも長めで、証拠を隠滅する作業の時間経過と、人を殺してしまったという後悔の気持ちや不安な感情を、台詞無しで表現しているものです。指紋を拭き取る動作など、かなりテキパキしていますし、その反面表情は複雑です。
クライマックスも見事
ピアノで「ガーン」「ガーン」「ガーン」と打ち鳴らし緊張感をあおる。そしてパッと真っ白に照らすヘッドライト。証拠を捨てようとする瞬間を捕らえる。観念したブリマーが犯行を認めて謝る。ケニカットとの会話で仕掛けた罠を明かす。ユーモアたっぷりのエンディング。素晴らしかったです。
受領書をもらう際に筆記用具を忘れている
ブリマーが左利きであることに気づくシーンで、得意技である「筆記用具を忘れる」が出ていました。
→ コロンボはよく「筆記用具を忘れる」件
ブリマー探偵事務所
ブリマー探偵事務所はとてもカッコいいですね、ガラス越しにマップが描かれていたりして。そして所内には10人近い探偵が所属していると思われます。でもほとんどのエキストラ探偵は名前がわかりません。それなのに一人だけ俳優名がわかりました。「写真A」の左から2番目です。
A
俳優の名前が特定できた探偵
それは俳優の「マーク・ラッセル(中央)」で1話
「殺人処方箋」でトミーの取調室の警官、3話
「構想の死角」でケンのオフィスで彼を連行する警官、そして今回の探偵役で合計3回出演しているエキストラ俳優さんだったのです。目立った仕事は一度もないのに、名前がクレジットされているので、不思議だったのですが解決できて嬉しいです(2024年11月)。
俳優の名前が特定できない探偵
その一方俳優のクレジットがなく残念なのが「ウィルコックス探偵」です。
「写真A」のシーンで右から2番目は「ブルックス」と呼ばれているのですが‥後のシーンのウィルコックスとよく似ているんだけどな〜。このモヤモヤが解決する日は来るのでしょうか?
怒鳴られるデニング
ブリマー探偵社の社員でコロンボ警部の案内役を仰せつかったデニングは俳優:エリックジェームス。社長に怒鳴られたシーンが印象に残ります。彼はこの1〜2年で数作品にしか出ておらず、ひょっとして早死にしたかな…。
ゴルフプロのアーチャー
一方ケニカット夫人の浮気相手、ゴルフは素人とちょぼちょぼの腕前のゴルフレッスンプロ「ケン・アーチャー」は俳優ブルット・ホールジー。この人は70年代から2010年代まで俳優として活躍しているようです。ゴッドファーザーIIIにも出ているそう。肉眼で見つけたら加筆します。それにしても、コロンボ警部の
ゴルフの腕前は凄かった!
免許センターの検眼係
物語の後半、免許センターらしき施設の検眼係の男性は俳優ケン・サンソム。この人は15話
「溶ける糸」で溶ける糸の解説をするポール医師と同一人物です。どちらも黒ブチ眼鏡がよく似合う可愛いキャラクターです。
白バイ警官
プジョー403の右のテールランプが切れていることで、白バイ警官に止められてしまいます。なかなかカッコ良い人です。この時に免許証が来週に切れることも教えてもらっています。
いい味出している検視官
87地区の殺害現場に登場する検視官は「ドン・キーファー」。遺体目線?のローアングルが印象的でした。この検視官は後半の墓を掘り起こすシーンでも再登場します。
殺人現場の検証でマッチを借りる
現場検証に立ち会うお偉方(課長)は「レン・ウェイランド」。警部に何か質問はないかね?と尋ねると「マッチを持っていないか?」と答えられていました。ことごとく断られ、3人目の刑事にやっとこさ借りられました。
遺体安置室の医師
ケニカット氏が亡くなった夫人の遺体を確認する際の医師です。エキストラ的なのに名前がクレジットされていました。
監督:バーナード・L・コワルスキー
脚本:リチャード・レビンソン/ウィリアム・リンク
音楽:ギル・メレ
ブリマー所長:ロバート・カルプ(声:梅野泰靖)
アーサー・ケニカット:レイ・ミランド(声:横森久)
レノア・ケニカット:パトリシア・クローリー(声:池田昌子)
ケン・アーチャー:ブルット・ホールジー(声:阪脩)
白バイ警官:レン・ウェイランド
検視官:ビル・ヒックマン
課長:レン・ウェイランド
デニング:エリックジェームス
秘書:バーバラ・バルダビン
レオ・ジェントリー:マーブ・ゴークス
シール・ジェントリー(夫人):リュー・ドレスラー
検眼係:ケン・サンソム
ウィルコックス探偵:不明
探偵:マーク・ラッセル
*本編を見る限り犯人のブリマーはファーストネームは不明です。(ノベライズ:小説版では、マイケルだそう。)これは全69作中、36話「魔術師の幻想」の「グレート(偉大なる)・サンティーニ」と二人のみ。
加筆:2024年11月4日