19話「別れのワイン」

Any Old Port in a Storm / 1973
ワイン醸造会社経営者のエイドリアン・カッシーニ(ドナルド・プレザンス)は、父の遺産を受け継ぎ、腹違いの弟リックはワイン醸造会社を受け継ぐ。しかし、弟リックは経営には無関心で、実質上の経営者である兄を差し置いて、大手(量販)酒造会社にワイナリーを売却することを告白。

ワインとワイン作りをこよなく愛する兄エイドリアンは逆上し、リックを殴打してしまう。兄は「金にしか興味の無い低能で下品な弟」とリックを見下し…、殺された弟リックは「飲めもしない程の高額ワインを買っている道楽者」と兄エイドリアンを変人扱い。この兄弟の対比も面白く描かれます。

作品としての品格を感じる「別れのワイン」

ストーリーは終止美しく展開しています。イタリア風のBGMを多用した他に、不規則に聞こえる「鐘のような音」がとても印象的で、特にエイドリアンの犯行隠避(いんぴ)の場面で多用されます。犯人のエイドリアンは決して悪人ではなく、怒りにまぎれて殺人を犯した。このまま罪を背負って「美しくない」余生を送るのも、喜ばしいことではないと感じています。その点では、後の作品28話「祝砲の挽歌」のラムフォード大佐の心情にも類似点を感じました。

ジュリー・ハリスは可憐

秘書のカレン(ジュリー・ハリス)は清楚で美しく描かれていました。そのカレンが話の後半で一転し、エイドリアンを脅迫するのは、とても面白い展開でした。「つまらない理由で結婚するカップルはいくらでもいる。」と、彼に結婚を迫るシーンは哲学的です。

リックの婚約者

名前はジョーン・ステーシー(ジョイス・ジルソン)。ですが本編で一度も名前が登場していない気がしませんか?彼女はお金が目当てではなく本当にリックを愛していた感じです。彼女が「家出捜索」を頼みに来たことで、事件発覚の前に、しかも殺人事件でもないのに、早い時間帯にコロンボが登場できています。

刑事コロンボをさらに楽しめる俳優

後半のレストランのシーンに登場します。このヴィトー・スコッティという脇役俳優さんの魅力を発見できたら、刑事コロンボの世界への入口を見つけたことと同じ意味ではないかと思います。

この俳優さんも良い!

ヴィトー・スコッティと一緒に叱られたワインをペチャペチャと飲み直すワイン係の男は「モンテ・ランディス」。この人も良い味を出しています。

リックの死亡原因を解説する専門家

バーで流れるテレビニュースでリックの死亡原因を解説する専門家は、15話「溶ける糸」に登場する刑事「ビクター・ミラン」という俳優さんに激似ですが、確認は取れていません。

ラストシーンも良い

「別れのワイン」と言う邦題の意味はラストシーンで見られます。コロンボとエイドリアンは車の中でワインを酌み交わします。エイドリアンはこれまでに収集したワインを全部ダメにして、海に捨てようとしました。犯行を自供し刑務所行きを覚悟する。これも俗世にさよならを言うような心境だったのでしょう。

ワイン屋のオヤジ

ほんの短いシーン、コロンボがワインの知識を学ぶために訪れたワイン屋のオヤジは「ジョージ・ゲインズ」。渋い演技を見せてくれています。彼は10話「黒のエチュード」の新聞社のエベレット役と同一人物です。

「別れのワイン」は刑事コロンボシリーズの最高傑作か?

この「別れのワイン」という作品は、コロンボシリーズの中で最高傑作であるとの呼び声が高いです。作品評を集めたサイトでは、数多くの意見が交わされています。概ね「作品としての品格や味わい」において非常に評価が高く、多くの人の支持を集めています。犯人役のドナルド・プレザンスが醸す高貴な雰囲気も好印象で、他の作品と別格であるとも感じさせます。題材がワインであることも、この作品の風格を持ち上げています。様々な意味で、この作品は味わい深いのです。
→人気作品ランキング

もちろん、私の考える「刑事コロンボシリーズの醍醐味」は、味わい深いことだけに終始しません。4話「指輪の爪あと」6話「二枚のドガの絵」15話「溶ける糸」などに登場する「憎たらしいほど強烈な犯人像」も見逃せませんよね。

人気ランキングで不動の1位獲得。

「別れのワイン」はどのような人気ランキングでも、常に1位を獲得してしまうという、不動の人気を誇ります。犯人役のドナルド・プレザンスを筆頭に、素晴らしい俳優陣。王道的なテーマ「ワイン」を扱った点でも、それが有利に働いています。
 

おそらくチチアンにも、この美しい赤は出せなかったでしょう。

おそらくチチアンにも、この美しい赤は出せなかったでしょう。もし試みたとしても、失敗したでしょう。という、名台詞で始まる19話「別れのワイン」。チチアンはルネサンスのイタリア人画家だ。現在は「ティツィアーノ・ヴェチェッリオ」と呼ばれます。かつてはチチアン、ティシアンと呼ばれていたそうです。赤毛の女性を多く描いたことから、この場面で引用されたのだと思われます。
チチアン→ティツィアーノ・ヴェチェッリオ

ワインへのウンチクも勉強になる

この作品はワインの知識が多く盛り込まれていて楽しめます。エイドリアンの友人たちが集まるシーンでは、皆がワイングラスのフット・プレート(底の台)を持っています。これは手の体温でもワインが不味くなってしまうことへの配慮だと思われます。

事件現場でニックの車について語る警官

煙草をくわえたコロンボ警部に「火を着けましょうか?」と話しかけ「いや節煙中で、くわえてるだけ」と断られた。その直後にやはり吸いたくなった警部から「マッチ持ってる?」と聞かれて「いえ、持ってません」と応じている!噛み合ってない二人の会話が笑えます。この警官は後の45話「策謀の結末」にも登場。何と倉庫で出会う銃の密売人になっていることを発見しました!俳優はジョン・マッキャン[John McCann]です。

監督:レオ・ペン
脚本:スタンリー・ラルフ・ロス
原案:ラリー・コーエン
エイドリアン・カッシーニ:ドナルド・プレザンス
秘書カレン:ジュリー・ハリス
エンリコ・ジョセッピ・カッシーニ:ゲイリー・コンウェイ
ジョーン・ステーシー:ジョイス・ジルソン
レストランのマネージャー:ヴィトー・スコッティ
警官:ジョン・マッキャン
 

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犯行のトリックが分かり難いという意見もあります。

エイドリアンがニューヨークに発った時点で、殴打されたリックがまだ生きていた点などを見逃すと、全く意味がわからないので、犯行を暴くトリックとしては決して簡単なものでは無いですね。また、エイドリアンはワインのテイスティング(味見)においては、人並みはずれた能力を持っていて、ニューユークへの往路の機中で「このワインはマズい」という表情をしたのも見逃せません。

頭を殴打された弟リックはまだ生きていた

倒れたリックの様子を伺う兄エイドリアン。「即死してはいない…回復する可能性もある」と想像します。もし彼が一命を取り留めれば「ワイン工場の売却」「傷害罪あるいは殺人未遂」…きっと、全てを失うことでしょう。そこで「このままリックを確実に殺してまおう」と思い立ちます。

ニューヨーク滞在を1週間に延ばしアリバイを作る

頭部損傷で気を失っているリックをワイン貯蔵庫に閉じ込めます。手足を縛って身動きを封じ「空調設備(冷房と換気)を切り、工夫を施しリックが数日以内に確実に死ぬように工作した。ニューヨーク滞在期間を延ばしたことからも、リックが何日後に死ぬか?までは、想定できなかったと思う。「実際には2日以内に死亡」
頭部をカゴのようなもので覆い「さらに息苦しくする」
呼吸を満足に出来ないようにし(声を発することも抑える)、と思われる。そして死亡時期を遅らせる(息苦しくする、死後硬直を遅らせる効果もあったか…)」

リックの死体を海に投げ込み、スクーバダイビング中の事故に見せかける

これにより、エイドリアンは自分のニューヨーク滞在中に、リックが事故死したと思わせた。が、コロンボ警部により様々な矛盾を見抜かれることとなるのです。


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加筆:2020年7月4日

“19話「別れのワイン」” への122件の返信

  1. 味覚が鋭すぎるカッシーニが「ワインの酸化」に気づいてしまったことで、犯人だと証明してしまうのは、皮肉でした。
    「古畑任三郎」の「動機の鑑定」における犯人の追いつめ方は、この作品を意識したと思います。(捨て目がききすぎる春峯堂が「うずくまる」を記憶してしまった)
    後世の作品にも多大なる影響を及ぼしているコロンボ。やはりすごい作品だと思いました。

  2. 半世紀近く前の名作といわれる作品に対して余計な意見めいたコメントをしてしまい、大変失礼いたしました。

  3. 被害者の死因を窒息と考えるとスッキリしない。被害者は袋を被せられても2日間生きていたのだからその間呼吸は可能だったことになり死因は窒息ではない。暑くて死んだのだから熱中症による脱水が直接の死因。解剖の結果、死因は溺死ではなく脱水症による衰弱死と判明しているはずなのでそのことを視聴者にしっかりわからせておけば、最後の場面で視聴者はもっとスッキリ納得できたはず。

  4. この作品では、空調が効いていなかった理由が問題になっているわけですが、犯人の潔さにより、あっさりと解決してしまいますよね。
    コロンボは多くの事件(ほぼ全て)で犯人を罠に掛けていますが、この犯人も諦めがよく、スマートに、余韻を持たせて終わっているのが、作品の好印象につながっていると思います。

  5. この作品では、空調が効いていなかった理由が問題になっているわけですが、犯人の潔さにより、あっさりと解決してしまいます。
    コロンボは多くの事件(ほぼ全て)で犯人を罠に掛けていますが、この犯人も諦めがよく、スマートに、余韻を持たせて終わっているのが、作品の好印象につながっていると思います。

  6. 雰囲気もよく、トリックや犯人と疑われる事象も良くできていると思うのですが、ダメになったワインを捨てにきたのが逮捕の決め手になるのがわかりませんでした。犯行してなくてもNYに行っている間に異常気象でワインが傷んだだけですし、犯行現場の岬に捨てに行く意味もないと思うのですが。何か見落としていますかね?

    1. すいません。自己返信ですが過去コメント見て大体納得しました。酸欠死と見せかけるために空調を切ったわけですね。普通は出張でもつけっぱなしにすると。ただ、なぜわざわざ岬に捨てに行ったのかまだ理解できてません。レストランでの騒ぎはあってもまだまだ言い逃れできる状況だったと思います。やはり結婚したくなかったから?

      1. そこら辺が、エイドリアンのオタク気質を表しているのだと思います。
        「完璧なワインでなければ保有する価値が無い」
        「少しでも状態の悪いワインは許せない。捨ててしまおう」
        という訳です。
        アイドルフィギュアを箱から出さずに大切に保管するオタクと一緒ですね(笑)

      2. レストランの後、エイドリアンは集めてきたワインが全部ダメになってしまったことを知ります。それが相当なショックで、まさに死ぬ思いの悔しさを味わったのでしょう。そこで海で待ち伏せしていたコロンボに出くわし、罪を認めたのだと思います。

  7. 毎度本編から逸れたコメント申し訳ございません。

    「ちびまる子ちゃん」第10巻「プロ野球開幕‼︎の巻」にて、本作が登場します。テレビでコロンボを見ているまる子とおじいちゃんが、結末の分かる前に野球中継を見るのが生き甲斐の父ひろしにチャンネルを変えられてしまい、結局結末の分からなかったまる子は、翌日学校にてクラスメイトのまるおくんに結末を教えてもらうという内容で、こちらのエピソードはアニメ版でも放映されています。なお、アニメ版の方にはテレビ画面にコロンボとカッシーニの姿がしっかりと描かれています。

    その後もアニメ版ちびまる子ちゃんには度々コロンボの名前や姿が出てきていて、ちびまる子ちゃん自体作者のさくらももこさんの実体験を基に描かれた作品でもあるので、さくらももこさんもコロンボのファンだったのかもしれませんね。

    1. 楽しいコメントありがとうございます。まるで自分の思い出話のように読んでいます。
      私は「コロンボ鑑賞中はぜったいお風呂に入れないから、呼びに来ないでほしい」と母親に頼んでいましたよ。

      1. たくさんコメントしてしまったにも関わらず、1つずつにお返事いただきありがとうございました。主さんの思い出にすごくほっこりしています。ぼくが再放送を観ていたころは、DVD やハードディスクなどの録画機能が充実していましたが、コロンボだけは再放送とは言えリアルタイムで集中して見たかったので、誰にも邪魔されまいとおばあちゃんの家に行って鑑賞していたのを思い出しました。時代は違えど、みなさん考えることは一緒なのですね。

  8. 犯人役のドナルド・プレザンスはミクロの決死圏に出演してます。村上春樹の1Q84にミクロの決死圏の記述がありYouTubeで見たらドナルド・プレザンスが映ってました。

  9. 今年の人。に選ばれるのは想定内だっただろうけど。そこまで頭が回る人にしては犯行は行き当たりばったり感が強いです。無理して後からつけたし感が強いです。まぁでも好きで見ちゃいますけど(笑)

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