作品の持った雰囲気がとても好きです。絵的な美しさ、兵学校という閉鎖された特殊なシチュエーション。他にも軍隊ものの作品はありますが、この「祝砲の挽歌」には及びません。
事件が起こる背景
陸軍幼年学校の劣等生にその罪をきせる行動と相反し擁護するような言葉も…。厳しいが故に学校で孤立してしまう立場も…。生徒たちの「自供」により殺人を暴かれてしまう下りも…。流れるようにつながっています。また、学校の平面図から「陸軍幼年学校」が「男女共学のキャンパス」に改築される計画があったことを見破るあたり、コロンボ警部の着眼は流石です。
冒頭の演出も見事
廊下をこそこそと進んで行くと、砲弾の工作をしている背中が見えてくる。予め準備した材料を丁寧に加工する手元。冷静ながらも…汗がしたたる表情。丁寧に指紋を拭き取る。火薬を流すために蛇口を振り回す。外に出た時、初めてタイトルクレジットの文字が表示され、微かなドラムロールでBGMが始まる。砲台での準備を終え、後に大きな意味を持つ「りんご酒」を見つける。6分30秒を過ぎた頃、軍隊ラッパの音と共に台詞付きのドラマがスタートします。6分30秒以上台詞は一切なし、音楽もごく小さい。冒頭シーンを見ただけでこの作品がどれほど凄いかを直感します。

パトリック・マッグーハンの存在感
犯人役のパトリック・マッグーハンの存在感は抜群です。ヘインズ陸軍幼年学校の理事長ヘインズを殺害した後も「厳しい校長先生:ラムフォード大佐」が、正義(?)を貫いて生きる様を、美しく演じています。
ラムフォード大佐
ラムフォード大佐は、自分の保身のために殺人を犯したとは思えません。むしろ間違った方向を向き始めたアメリカに対し「NO」と言いたかったのでは?私は戦争擁護の立場ではありません。ただ大佐の気持ちを考えただけです。
日本語吹き替え:佐野浅夫さん
ラムフォード大佐の吹き替え「佐野浅夫」さんは素敵でしたが、ミラー当番兵(靴が汚れていた生徒)を再度呼び出して説教するシーンからしばらくの間、別の声優になっていました。佐野浅夫さんとは似ていない声で、この部分がとても残念でした。初期放送版ではカットされていたのでしょうね。重要な場面だと思いますが放送時間の関係でしょうね。
スプリンガー候補生

*=実は掃除当番をさぼっている。
シロとクロを見分ける着眼点
コロンボ警部が容疑者を「ラムフォード大佐」に絞る場面は、大佐がボロ布を最初に見た時に言及を避けたのに対し、スプリンガー候補生はためらうこと無く「大砲の清掃用の布」と答えたことにあるでしょうか。ラムフォード大佐は事故の原因をスプリンガーの不始末として片付けることを前提として、この犯行計画を始めたわけであり、自分の計画どおりに進む捜査に対し、すこしだけためらいの感情が出たのでしょうか。
自ら祝砲を撃つ役目を引き受けた

マドリン・シェアウッド

とばっちりを食らうルーミス大尉

大草原の小さな家

祝砲の挽歌
原題は「By Dawn’s Early Light」で直訳は「夜明けの明りで」という感じ。「挽歌」とは中国で葬送の時に柩(ひつぎ)をひく者が歌った歌で、エンディングに歌とともに訓練する響きも通じて、納得の邦題です。これについては、ブログゲストさんが詳しく解説してくれていますので、ぜひお読みください。
クレーマー刑事が登場

モーガン候補生はクレーマー刑事の息子!

ヘインズ陸軍幼年学校
「ヘインズ陸軍幼年学校」はサウスカロライナ州チャールストンがロケ地だということです。ですので海外ロケに匹敵するほどの作品スケールが感じられるわけです。
監督:ハーヴェイ・ハート
脚本:ハワード・バーク
ラムフォード大佐:パトリック・マクグーハン
スプリンガ―候補生:マーク・ホイーラー
クレイマー刑事:ブルース・カービー
ルーミス大尉:バー・デベニング
ウィリアム・ヘインズ:トム・シムコックス
モーガン候補生:ブルーノ・カービー
加筆:2020年7月26日
私にとっては「コロンボ」の最高Epです。
皆さんも、「コロンボ」は犯人側視点で視てしまう事が多いと思います。
小学生だった初放送当時から、私と犯人との意識シンクロは、ラムフォード校長が最高で、「祝砲の挽歌」では完全にコロンボと戦っていました。
私(ラムフォード校長)が焦ったのはコロンボがカマをかけてきたシーンです。
コロンボが読み上げた「感情まかせで、行動は予測しやすい云々」をスプリンガーの人物評と思ったところ、ヘインズ理事長の在校時に校長自身がくだしたものだった。
このとき、感じたのが、安く見ていたコロンボが自分並みの思考を持つ事。
つまり自分の人間観察力が絶対でない事
コロンボが自分にカマを掛けたであろう事。
自分に嫌疑がかかっている事
だから、じっとやり過ごすべきと感じるのに、軍隊の理想と規律のため動いてしまう。
最後の「薔薇」の話は、軍隊の「理想」「矜持」「美学」→「尺度」ではないかと思います。
守りたいものがある。でも「軍人の尺度」でしか物事が観られない事もあった云々。
今は認めているが、コロンボの能力、価値も最初は見損なって油断してしまったのです。
軍人の規律、歩き方、立ち姿、話し方、食事のマナーに至るまで、コロンボは正反対。
校長は表に表さないが、大尉や他のとまどった態度で明らか。(汚物を見るような)
日本語版は美声だが英語版のP・フォークは不愉快なしゃがれ声に「キシシッ」という下品な笑い声なので余計ですね。(チキチキマシンのケンケンの元ネタですよね)
私にとって「コロンボ」世界の原点のひとつです。
ところで
暴発は、砲の老朽原因の事故で落着するはずが、コロンボがボロ切れを発見したため、当番兵に過失の嫌疑がかかったわけで、当初、校長は罪をきせようとは思ってなかったはず。
だからボロ切れ発見で自供が咽まででかかったんでしょう。
ただ一旦、当番兵の過失嫌疑になったのなら、その線で落着願ったが、今度は単純な過失事故でないとの疑い。それでは、校長を狙った犯行になってしまうので、学校に関する不名誉な事件性を嫌って過失にこだわったと感じます。(校長自身は疑われないからOKだが)
校長の大砲への仕掛けが明方になったのは、困り悩んだあげく、爆殺思いついて慌てて火薬準備したのが、当日夜明け前だからなのでは?
校長は冷静にふるまう人だが、行き当たりばったりとは言わないが、用意周到な人でもないと感じます。政治的に器用に立ち回れず、理事長に完全に追いつめられるまで成り行きだった訳だし。