4話「指輪の爪あと」

Death Lends a Hand / 1971

刑事コロンボらしさが確立した初期の傑作「指輪の爪あと」

作品として素晴らしいです。成功を収めた探偵社の社長ブリマー「ロバート・カルプ」のキャラクターも印象的。成功者が調子に乗りすぎて足を踏み外して一気に転落するというシナリオも、コロンボ作品らしくて好きです。「計画殺人ではない」という点ではイレギュラー的な展開を見せます。

コロンボ警部も負けていませんでした。

同業者(事件捜査)による犯罪のエピソードは他にも例がありますが、今回は成功をおさめた探偵です。一見してコロンボ警部を見下し、小馬鹿にするブリマーに対し「この手相は成功しそうでいて、失敗しそうな性格」と、言い返す場面は見逃せません。

二つのレンズで別の場面を描写

殺人シーンから隠蔽作業の表現で、犯人役ロバート・カルプのサングラスのレンズに映り込みを利用したのは、とても面白いです。左右のレンズで別々の場面を映し出し、スリリングに仕上げています。ちなみに6話「二枚のドガの絵」では犯行シーンで「ガ~ン、ガ~ン」みたいな音楽とともに画面が揺れていました。(笑)

ロバート・カルプの憎まれ役は最高

俳優ロバート・カルプは他のコロンボ作品でも見ることができますが、この「指輪の爪あと」のブリマー氏の「傲慢」「短気」「高圧的」「インテリ肌」は格別です。特に短気な性格は、ストーリーのいろいろな場所で効果的に描写されています。

相手の弱みにつけ込んだことが、自分の命取りになる…。

選挙に有力な情報を教えろとブリマーに脅迫されたケニカット(パトリシア・クローリー)夫人が、開き直ってブリマーを脅迫仕返すのはグッドな設定です。「それだけはいけません、奥さん」「探偵事務所をここまでに築き上げるのにどれほど苦労をしたか…」というブリマーの本音が出ていました。

殺人ではなく傷害致死?

3話の「構想の死角」では「脅迫された相手を殺してしまう」のですが、この作品では、その逆展開をやっています。夫婦関係は一つや二つの失敗で壊れないもの、自分は正直にすべてを主人に話す…と開き直られて逆上して殺害に及ぶのです。しかしよく考えてみると、これは「殺人」ではなく「傷害致死」でしょうか?「殺す気はなかった…」と言っていますしね。
相手の破滅と引き換えに利益を得ようとする発想は、自分にも最大のリスクを発生させるという教訓を感じます。今回ケニカット夫人は利益ではなく復讐の意図でブリマーに逆襲しますが、相手に逃げ道を示すことを考えつけば、命は落とさなかったことでしょう。

ブリマーはコロンボの思い通りに動かされている…

最後は犯人に罠をしかけるパターンで解決を迎えますが、その過程で徐々に犯人を精神的に追いつめて行く手法も見逃せないですね。その中でも、コロンボに示唆され「自宅でコンタクトレンズを探している」シーンはこっけいです。台詞にはありませんが「そうか、クルマの中だ!」と気付いて、修理工場に忍び込むのですが、全てコロンボ警部の「シナリオ通りに動かされている」というわけでした。

原題の「death lends a hand」は乱暴な直訳で「死は手伝います」。最初はピンと来ない気がしましたが、ブリマーが事件捜査に手を貸す振りをしてコロンボに接近したことや、決め手となった「コンタクトレンズ(Lens)」をひっかけたものと思われ、興味深いものだと思えます。

レイ・ミランド

殺害されたレノア・ケニカットのご主人アーサー・ケニカットはレイ・ミランド[Ray Milland]で後の11話「悪の温室」で犯人のジャービス・グッドウィン(今回とは風貌が異なる:笑)を好演する名優です。どちらも流石の演技でしてコロンボファンの心を掴んでいます。

ロサンゼルスマップ[マップ表示はPCのみ]

犯人の「ブリマー邸」はビーチに面している設定です。これは、ロサンゼルス西部のマリブビーチだと思われます。この近所には、なんと自縛の紐の「マイロ・ジャナス」も住んでいました。また「ケニカット」氏はビバリーヒルズの北、すこし小高い丘に住んでいます。とても眺めが良さそうですね。
 
監督:バーナード・L・コワルスキー
脚本:リチャード・レビンソン/ウィリアム・リンク
ブリマー所長:ロバート・カルプ
アーサー・ケニカット:レイ・ミランド
ケニカット夫人:パトリシア・クローリー
ケン・アーチャー:ブルット・ホールジー
 
*犯人のブリマーはファーストネームが不明です。これは全69作中、36話「魔術師の幻想」の「グレート(偉大なる)・サンティーニ」と二人のみ。
2009年にNHK BS2(当時)で再放送されたシリーズで、本作品と再会しました。その頃は、1話より順に放送されていなかった記憶があります。
加筆:2012年6月4日にAXNミステリーで再放送されました。それを見ながら書いています。

3年ぶりに本作品を見て、印象が多少変わりました

まず第一に、ブリマー氏は当時感じたほど「高圧的」ではありませんでした。その後の作品「権力の墓穴:ハルプリン次長」「4時02分の銃声:フィールディング・チェイス」などの豪傑を見ましたので(笑)。ブリマー氏は「威張り腐っている」感じより、むしろ「自分をやや謙遜しつつ」「猫なで声ですり寄ってきて」「相手の隙を狙っている」ように映りました。
またブリマーは、ケニカット氏への体面上ではコロンボ警部を小馬鹿にしていますが、実は会う前から警部を「切れ者」だと気付いています。警察署長にコロンボについて下調べをしているのです。初対面の時も「ゴルフバッグ」を発見され先制パンチを喰らいました。

本当に隙・無駄の無い作品

○白バイに停められるシーンでの会話→免許の書き換え
○出口を間違える→ゴルフバッグの発見
○客の秘密を喋りそうな部下を激怒→関係した部下を外す・短気な性格を引き出す
○犯人の逮捕をほのめかす→自動車修理工場へ出向かせる
など、すべてのシーン・台詞がストーリー展開に重要な役割を果たしていて、展開も速く非常にスリリングです。またメガネの映り込みのシーンは、思ったよりも長めで、証拠を隠滅する作業の時間経過と、人を殺してしまったという後悔の気持ちや不安な感情を、台詞無しで表現しているものです。指紋を拭き取る動作など、かなりテキパキしていますし、その反面表情は複雑です。

クライマックスも見事

ピアノで「ガーン」「ガーン」「ガーン」と打ち鳴らし緊張感をあおる。そしてパッと真っ白に照らすヘッドライト。証拠を捨てようとする瞬間を捕らえる。観念したブリマーが犯行を認めて謝る。ケニカットとの会話で仕掛けた罠を明かす。ユーモアたっぷりのエンディング。素晴らしかったです。

受領書をもらう際に筆記用具を忘れている

ブリマーが左利きであることに気づくシーンで、得意技である「筆記用具を忘れる」が出ていました。

殺人現場の検証でマッチを借りる

検死官などにマッチを貸してくれるよう頼むが、ことごとく断られ、数人後にやっとこさ持っている人に出会う。
 
→ コロンボはよく「筆記用具を忘れる」件
 
加筆:2020年4月18日

“4話「指輪の爪あと」” への71件の返信

  1. ロバート・カルプの吹き替え代名詞的な梅野泰靖氏が亡くなられましたね。
    ご冥福をお祈りいたします。

  2. こんにちは。いま、水曜日のBSでコロンボさんを放送していますね。
    指輪の爪痕を改めて拝見して、気が付いたことがありました。
    コロンボさんは、銃を持たず、交通ルールもさることながら警察のルールもわざとではないように見せかけて、わざと無視している。日本の刑事ドラマではまず見られない、ルーズさ(^_^;)
    そして、金持ちとか権力のある人に対して偏見や嫉妬やいじけた感情を抱いていないのだと思いました。
    ケニカット氏の立場にではなく、人間として奥様を亡くした方への同情から、コーヒーを自腹で差し出しています。
    黒人の刑事や警察官もよく登場していますね。
    黒のエチュードには、アジア人の執事が出ていましたが、今回もサーバーはアジア人の男性でした。
    人種の入り雑じったアメリカが、素直に正直に描かれていて、感心しきりです。

    1. コロンボ警部は上司の評価や出世を望まみません。
      たぶん上も下も見ていないのです。
      目の前にある事件の解決に没頭するだけ。

    2. このドラマの舞台LAに80年代に住んでた者ですが、海外では家政婦を雇うのは中流階級でも珍しくなく、募集をすれば、やはり移民のアジア系やヒスパニッシュの求職者が多いようです。
      警察官で黒人がいるのは、「黒人の雇用枠」があり、白人で職が占有されないように黒人の雇用を守っているそうです。それに反発する白人至上主義者も根強く存在するのも「アメリカ合衆国」という国ですね。

      1. 警察官に占めるイタリア系移民の数も多いと何かの本で読みました。コロンボがイタリア系なのもアメリカ人にとって違和感がないのでしょうね。

      2. なるほど。
        我が国のお役所でも、〇〇枠はありますね。
        米国でも、お役所気質は同じ、という事ですか。
        そして、多分、ハリウッドにも。

  3. コロナの時節柄、DVDでお気に入りの作品をあらてめて観ています。
    冒頭の拳銃試射のシーンについて、今までは単に
    観る人を引き込む為の演出程度に捉えていましたが、クライマックスで
    クルマも「不具合が有ればすぐに修理に出す」というブリマーの性格や行動を表す端緒も担っているとも解釈しています。
    同じく、冒頭シーンで探偵社の受付女性の少しうわずった
    ピリピリ感ある声音にも至極感心しています。

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