32話「忘れられたスター」

Forgotten Lady / 1975

泣けるコロンボ作品…

「忘れられたスター」は私が最も好きな刑事コロンボ作品のひとつ。解決編では、この作品ならではの結末を迎えます。それはコロンボ作品中、最も涙を誘うものです。

永遠のスター「ジャネット・リー」

ジャネット・リー往年の大女優グレース・ウィラー(ジャネット・リー)は輝きを放っていました。14話「偶像のレクイエム」のアン・バクスターの大女優も悪くはないのですが、私の好みも加味すると「格別」の感があります。

ジャネット・リーの代表作のひとつ映画「サイコ」では、名匠ヒッチコックが彼女の肉体的な魅力をも引き出していると感じられます。

「ウォーキング・マイ・ベイビー」のジャネット・リー

ウォーキング・マイ・ベイビー「Walking My Baby Back Home」は1953年のミュージカル映画。これより22年前(26歳)の作品だということです。ジャネットの役名は「クリス・ホール」で、ローズメリー・ランドル(ロージー)ではありません。主役の男性はダイヤモンドではなく「ドナルド・オコーナー」。

殺しの序曲のウエイトレス

また40話「殺しの序曲」に登場するウエイトレスは「ジェイミー・リー・カーティス」で、ジャネット・リーの娘です。

コロンボシリーズで最も重要な「犯人ではない登場人物」

ジョン・ペインかつての名優ネッド・ダイヤモンド役ジョン・ペインの存在も際立っています。スターでありながらジェントルマンでもありましたね。犯人でも被害者でもない登場人物として、ピカイチの存在感ですね。大好きです。日本語吹き替えはウルトラマンのムラマツ隊長(キャップ)で知られる「小林昭二(あきじ)」さん。

コロンボはネッドに何を託したか

コロンボ警部がネッド・ダイヤモンドに事件の全てを説明するのは、意味深いです。グレースが執拗な捜査にいらだちつつも、好意的な態度に変わっていくことから、「通常の殺人犯人とは違う」ことには気付いていたでしょう。そのような(病状の)グレースに対し「自白に導く」というコロンボ特有の「落としの手法」が不可能となりました。ラストシーンでコロンボ警部はおそらくグレースを逮捕しようとしますが、それはネッドの偽りの自白により阻止されます。もしもそのまま犯行を覚えていないグレースの逮捕という結末では‥後味が悪いですね。

エンディングシーンは警部のセリフ「それがいいね」と、自らを納得させるような表情。そして直前のネッドの自白すらも忘れ映画に見入るグレース。別れのあいさつをせず、ドアを閉めるコロンボ。この結末は最高に美しいです。(加筆:書きかけ2022年12月30日)

忘れられたスターの魅力

原題と邦題はほぼ同意味で、この作品を端的に表すグッドなネーミングです。「ファンは自分を決して忘れていない」と、女優復帰に並々ならぬ意欲をみせるグレースですが、当人は記憶を失う病気で、余命幾ばく。それを知っている夫ヘンリーは復帰に反対するが、愛情とは理解されず妻に殺されてしまう…。グレースを心から愛する元パートナーの俳優ネッドは、身代わりとなり逮捕される。

憎しみを感じさせない、悲しい殺人事件

アーミー・アーチャードもはやコロンボの名前すら覚えられないグレース。財産をはたいてまで復帰を目指しますが、プロデュースを買って出たネッドでさえ、復帰の難しさを感じていたでしょう。生きているうちに…と世界旅行を提案する夫の優しさも虚しい。幸せとは何であるか?を考えさせられました。(写真は冒頭の番組の司会者:アーミー・アーチャード本人役)

名作にふさわしい演出

ウォーキング・マイ・ベイビーウィリス邸での映画鑑賞会で、殺人は自分の犯行だと告白するネッド。それを知って驚くグレース。この二人の表情を、上映中の「ウォーキング・マイ・ベイビー」が照らし、際立たせる演出。会話の最中だけ映画音楽がカットされ、光と陰のみで表現されています。何回見ても感動するわけです。静止画にすると怖いけど綺麗なシーンです。これを意識して、もう一度このシーンを見てください!

覚えていないという主題

グレースは記憶を失う病気で、シーン各所にその伏線が見えています。ブログゲストさんのコメントにもありますが、何を覚えていて…何を忘れてしまったのか…その焦点もこの作品に不思議な魅力を加味しています。

夫ヘンリーはこの時84歳!

サム・ジャッフェ夫のヘンリー・ウィリスは俳優「サム・ジャッフェ」で、この時なんと84歳(1891年生まれ)。妻のグレースが48歳ですので、36歳の年の差婚なわけです。ちなみに23話「愛情の計算」、ニコルソン博士(66歳)妻マーガレット(33歳)、33歳の年の差婚なのでこっちの勝ちです!

サム・ジャッフェの実際の奥さま

ベティー・アッカーマン2021年にこれまたビックリ情報(コメンテーターさん情報)を得ました。この俳優サム・ジャッフェは、10話「パイルD-3の壁」で秘書のシャーマンさんを演じたベティー・アッカーマンが実の奥さまだということです。彼女は1924年生まれで、実際にも33歳差という、年の差婚だったのです!

人気ランキングで常に上位を獲得

コロンボ作品の「人気ランキング」では、確実に「5位以内の座を獲得する作品」だと断言しておきましょう。(笑)1位は、やはり「別れのワイン」の指定席。32話ということで、決して傑作ぞろいの初期作品‥ではないのですが、まだこのような斬新なストーリーがあったのだと、びっくりします。

これもひとつのスタイル

私は刑事コロンボの王道的なスタイルとして「成功者の転落劇」にこだわっています。もちろん、そこに刑事コロンボの醍醐味が存在するのですが、この「忘れられたスター」のような「決して悪人とは思えない」犯人によるストーリーも感慨深いですね。19話「別れのワイン」、41話「死者のメッセージ」などに同じ雰囲気を感じます。

執事レイモンドはモーリス・エヴァンス

モーリス・エヴァンスウィリス(グレース・ウィラー)家の執事レイモンドは、その可愛い風貌も含めとても素敵でした。奥様のアルマさんはとても若かったですね。これらの登場人物が、すべて良い味を出してると思います。コロンボ作品で名作と呼べるものには、このように脇役が作品の魅力を高めているものが多い気がします。

猿の惑星や奥さまは魔女などで活躍

モーリス・エヴァンス執事レイモンド役はモーリス・エヴァンスで、映画「猿の惑星」の「ザイアス博士」でもお馴染みの俳優。またテレビドラマ「奥さまは魔女」では、主人公サマンサのお父さま「モリース」を演じています。

バーク刑事Bではない!

ジェローム・グアルディノ後の作品、41話「死者のメッセージ」、43話「秒読みの殺人」、47話「狂ったシナリオ」に登場するバーク刑事Bの「ジェローム・グアルディノ」ですが、今回はまだバークではなくハリス刑事としてちょい役で出演しています。

ランズバーグ先生とコリアー先生は同僚だ!

ロス・エリオット31話「5時30分の目撃者」の精神科医コリアー先生と、32話「忘れられたスター」の外科医ランズバーグ先生(ロス・エリオット)の病院は同じでした!詳しくは「廊下に色ラインが描いてある病院」をご覧ください。

この病院で登場する女性警察官

レフコウィッツ巡査部長この女性警察官レフコウィッツ巡査部長は、フランシーヌ・ヨーク。制服がよく似合う素敵な女性でしたね。これをきっかけに、ラティ警部など数人の警察署員が顔をだして賑やかになります。

本屋の店員

本屋の店員自殺した(ようにみえる)夫のヘンリー・ウィリスが読んでいた本「マクトウィグ夫人の変身」について、詳しく教えてくれる店員(ダニー・ウェルズ)さんは、31話「5時30分の目撃者」のコリアー先生の友人の一人です。

アンダーソン検死官

ハーヴェイ・ゴールド「アンダーソン検死官」「ハーヴェイ・ゴールド」。33話「ハッサン・サラーの反逆」でも検死官、27話「逆転の構図」ではカメラ店のハリー・ルイスを演じています。日本語吹き替えは「ウイルソン刑事」「ドカベンで徳川監督役」の野本礼三さん。

階段の吹き抜けと壁紙が印象的な豪邸

このウィリス邸は、玄関脇から2階に上る階段がとても印象的で、見上げたり、見下ろしたり、いろいろなアングルから撮影されています。また、花柄を基調とした壁紙も素敵です。グレースのお部屋などは白地にに明るい配色の花柄。それに対しご主人のお部屋などはブルーの花柄になっていて、シックな印象を受けます。邸宅が高台にあることから、窓越しの景色にハイウェイが見えたりして、とても素敵です。

一枚のドガの絵

一枚のドガの絵ゲスト・コメンテーターさんの発見です。後半の「ネッド・ダイアモンド・スタジオ」の廊下に飾られている絵は、あの「二枚のドガの絵」の中の一枚です!オリジナルとは‥考えにくい(複製の可能性)ですけど、楽しい発見。ドア越しにずっとこの絵が映っており確信犯だと思われます。
刑事コロンボのウィリス邸

監督:ハーヴェイ・ハート
脚本:ウィリアム・ドリスキル
音楽:ジェフ・アレギザンダー

グレース・ウィラー:ジャネット・リー(声:鳳八千代)
ネッド・ダイヤモンド:ジョン・ペイン(声:小林昭二)
執事レイモンド:モーリス・エヴァンス(声:巖金四郎)
アルマ:リンダ・ゲイ・スコット
アーミー・アーチャード:アーミー・アーチャード
アンダーソン検死官ハーヴェイ・ゴールド(声:野本礼三
ランズバーグ医師:ロス・エリオット
ウエストラム医師:ロバート・サイモン
レフコウィッツ巡査部長:フランシーヌ・ヨーク
ハリス刑事:ジェローム・グアルディノ
ランズバーグ医師:ロス・エリオット
本屋の店員:ダニー・ウェルズ
フレッド・ローリング(ダンサー):スコット・サーモン
パーティの客:マイク・ラリー
 
加筆:2024年8月29日