6話「二枚のドガの絵」

Suitable for Framing / 1971

ぼろんこの考える「傑作コロンボ作品:二枚のドガの絵」

何の前振りも無く、犯人の美術評論家デイル・キングストンが、ピアノ越しに叔父マシューズ氏をズドンと一発やった時には、やはり初期のコロンボは凄いと感じました。徐々に見えてくる殺害動機や犯人デイル・キングストンの人間像。言動などから卑屈な性格も見え隠れします。最初から「誰に濡れ衣を着せる」つもりで犯行を計画した‥などなど、良く練られた素晴らしいシナリオです。この「二枚のドガの絵」は私の好きな作品のトップランクです。

犯人の誘いに乗って、最大のチャンスをモノにする。

コロンボ警部はデイルから自宅の鍵を渡された時が最大のチャンスだと見切っていました。その時のデイル宅には、全く証拠が無いとデイル自身が教えているようなものです。しかも、コロンボが捜査した直後が、絵を持ち帰るもっとも安全なタイミングであると考えたのでしょう。しかし、コロンボ警部が部屋で寝ていたのは誤算でした。それにしても…デイルはうかつでした…トレーシー殺害後、絵をもう一度「包装紙にくるんで」持ち帰るべきだったですね。

犯人が自分から行動を起こすように誘導。

キム・ハンター真犯人デイルは叔母のエドナを犯人に仕立てます。相続人が被相続人を殺害した場合、相続権が自分に移るためです。そのためエドナが逮捕されないと、犯行が完成しません。それに目を付けたコロンボはデイルに「絵が出てくるまで、積極的に動くのをやめよう。」と、事件解決を長引かせる提案をします。それでは困るデイルは、急いで行動を起こすのです。

ラストシーンは圧巻です。

コロンボ警部はエドナの屋敷に登場する場面から、ずっとポケットに両手を突っ込んでいますね。しかも、犯人をトン死状態に追い込む会話術(指紋の割出しのくだり)も抜群です。そして、手を広げてみせるあの顔とポーズ。ピーターフォーク以外の俳優では決まらない、まさに完璧なラストです。俯瞰(ふかん)気味の静止画もきれいでしたね。

ちょっとした疑問、意味の無い行動?

作品冒頭の殺害現場を演出する場面では、デイル・キングストンは飾られた絵画や家具を荒らしますが、これは全く意味のない行動だと思いませんか?絵画を盗難する行為と結びつきませんし、あんなことをすれば物音がするので誰かに気付かれる危険が非常に高くなります。殺害時間帯に「近辺に誰もいない」ことを確認済みであったとしても、理解に苦しみますね。ましてやエドナを真犯人に想定しているのであれば…言うまでもありませんね。

ロス・マーティンの演技力に乾杯!

ロス・マーティンゲスト俳優ロス・マーティンの演技、台詞、表情が抜群です!特に無名画家のパーティに呼ばれ、ご婦人方に囲まれて「人間万歳!」とはしゃぐ場面や、コロンボ警部の執拗な捜査にいら立ち「おまわり」呼ばわりで激怒する場面は良いですね~。日本語吹き替えは西沢利明さんで、29話「歌声の消えた海」のヘイドン・ダンジガーと同じ。

デイル・キングストンという人物。

デイルは美術評論家として成功をおさめますが、少し屈折した性格に描かれています。あまり幸せな幼少期を過ごしていない設定で、言葉遣いや素行は決して上品ではありません。業界でも煙たがられていました。

犯人の心理をよく表現している

「コロンボを敵視する」「記憶力が良い」「説明が上手」
デイルはこの3点を備え持っていました。自分にやましい部分がなければ必要以上にコロンボを敵視しません。人の記憶は曖昧で時間の経緯などをなかなか覚えていないもの。自分に容疑がかからない方向の状況説明をぺらぺらとしゃべること。これらは全ては、コロンボが容疑を深める行動なのです。

コロンボ警部はそんなデイルに対し、ラストシーンで「キミ」と呼んでいます。おろかな濡れ衣工作に奔走したデイル。すべてお見通しのコロンボ。二人のパワーバランスが完全に逆転している表現です。

特殊メイクなしでも、魅力的な演技。

キム・ハンターところでこの作品に出てくるエドナ夫人、猿の惑星に出演しているチンパンジーのジーラに似ている気がしてました。と思って、インターネットで調べたら、本当にそうでした。顔の輪郭や仕草がそっくりだったので、もしやと思ったらズバリ!このエドナ夫人と「ジーラ」を演じた女優は「キム・ハンター」。この後の作品、8話「死の方程式」にはコーネリアスやシーザーを演じた俳優「ロディ・マクドウォール」やアーサス将軍役の「ジェームズ・グレゴリー」も出演しています。詳しくは研究記事「刑事コロンボと猿の惑星」をお読みください。

ロザンナ・ホフマン

ロザンナ・ホフマン犯行現場に遅れてきて「誰にも見られなかったか」念を押された共犯の美人美術学校生トレーシー・オコーナー(ロザンナ・ホフマン)の返事「モチよ!」は最高、完全に死語ですよね。

ロザンナ・ホフマンには新シリーズでも会える。

新シリーズの53話「かみさんよ、安らかに」で、ロザンナ・ホフマンさんに再会できます。家を買いに来るお客さんご夫妻の奥さま役です。ぜひご確認ください。また彼女は実生活で、刑事コロンボ作品の原作家「リチャード・レヴィンソン」の奥様でありました。

場面転換にナイスプレー

殺害計画の中に「自分の口封じ」も含まれているとは気づかないトレーシー・オコーナーは、マリブ山中で殺されてしまいます。その殺害シーンは、岩を持って襲いかかるデイルに恐怖する彼女の表情から、「キャ〜」という絶叫もに聞こえる「(デイルが帰宅する)クルマのタイヤ音」で場面転換しています。見事な手法ですね〜。

画廊の女主人マチルダ

ジョアン・ショーリー画廊の女主人マチルダ・フランクリンは女優ジョアン・ショーリー。豪快な感じの女性で、デイルにマシューズ氏の殺人容疑がかかっていると気づくと大笑いします。

画家のサム・フランクリン

サム・フランクリン画家のサム・フランクリンは俳優ヴィック・テイバック。マチルダのご亭主であります。ちょっと冴えない感じに見えまして、「この絵が1000ドル(約30万円)もするの!」と客から驚かれています。また俳優ヴィック・テイバックは宇宙大作戦(スタートレック)の「宇宙犯罪シンジケート」にも出演しています。

ヌードモデルのクリス

キャサリン・ダークサム・フランクリンのアトリエでヌードモデルを務めていたのは女優キャサリン・ダーク。この人よく見ると、前半のパーティ(写真)にも出席しています。またこの女優さんは次回作の7話「もう一つの鍵」でベスが派手な服を買うブティックの店員としても出演しています。

ドン・アメチー

ドン・アメチーマシューズ氏の顧問弁護士の紳士シンプソン(ドン・アメチー)も良かったです。18話「毒のある花」のラング社長役の「ビンセント・プライス」と雰囲気が似ていますね。日本語吹き替えは「八奈見乗児」さん。今回は抑え気味ですが、39話「黄金のバックル」の美容師ダリルでは独特の声色を楽しめます。

捜査一課のワイラー課長

バーニー・フィリップスこの事件の責任者でコロンボ警部補の上司ワイラー課長は俳優バーニー・フィリップス。なかなか雰囲気を持ったキャラクターで、良い顔をしています。

画廊のご婦人

サンドラ・ゴールドサムの絵に対し「1000ドルもするの?高いわね。」と文句を言う小柄(身長151cmらしい)なご婦人は女優「サンドラ・ゴールド」。彼女はほぼ同時代のTVドラマ「奥様は魔女」で、スティーブンス家の隣人「グラディス(二代目)」を演じていました。

トレーシーの大家さん

メアリー・ウィックストレーシーの大家さん「マーサ」は、女優メアリー・ウィックス。コロンボ警部と二人でフォトアルバムから写真を探すシーンは、ほのぼのしていて良いですね。

サリー巡査

サリー巡査マシューズ邸で庭を駆け下りて裏口に逃げる足音のテストに付き合ってくれる女性警官「サリー」を演じる女優は残念ながら「不明」です。ちょっとしたシーンですが、スラっとした感じの美女で印象に残りました。

植木屋

サリー巡査マシューズ邸で拳銃を発見する植木屋は俳優「レイ・バラッド」。この人は16話「断たれた音」でクレイトンに宛てたデューディックの遺書を持ってくる刑事役で再登場しています。

原題は「フレーミングにふさわしい」

原題の「Suitable for Framing 」は直訳「フレーミングにふさわしい」ですが、エキサイト翻訳では「二枚のドガの絵」と出ました。凄いですね、コロンボの作品名が辞書登録されているようです。他にもこのような例が多くありました。

ロス・マーティンとピーターフォーク

ロス・マーティンはポーランド出身の舞台俳優で1920年生まれ。ピーター・フォーク(1927年生まれ)よりも7歳年上でかつてはピーターフォークの演技の師匠であったそうです。16話「断たれた音」のローレンス・ハーヴェイが監督・主演の映画「脱走計画」にも出演したそうです。その他、警部マクロードやチャーリーズ・エンジェルにも出ているようです。

ドガについて勉強しよう

エドガー・ドガエドガー・ドガ(Edgar Degas:1834-1917)はフランスの印象派の画家、彫刻家。本作の題材は踊り子のパステル画でドガの得意分野とされます。いわゆる「二枚のドガの絵」は、どこで見ることができるか?現在調査中です(笑)

一枚のドガの絵

ドガの絵そんなに高価なのか!とも思わせちゃうこの「二枚のドガの絵」。この中の一枚(写真右)が何と、32話「忘れられたスター」のネッド・ダイアモンドのスタジオの廊下に展示されています!2021年ブログ・コメンテーターさんの発見です。半世紀を経てなお、楽しめる仕掛け。これ‥絶対、狙って作っていますよね!

一枚の絵画が、二箇所に展示

二枚のドガの絵二枚のドガの絵第一殺人の事件現場マシュー邸の二階(左)に飾られていたはずの、青い衣装をまとったギリシャ人風の絵画が、なんと同時間帯にサム・フランクリンの個展会場(右)にも展示してあるようです。(2022年ブログ・コメンテーターさんの発見)

リアル二枚のドガの絵

ポーラ美術館のドガの絵ポーラ美術館のドガの絵2020年にポーラ美術館を訪れた際、ドガの絵を肉眼で見ることができました。撮影もOKでした。芸術は肉眼で見るに限りますね。ドガについては、詳しい研究記事をご覧ください。
刑事コロンボマップ
サム・フランクリンの画廊は [La Cienega Blvd.]ラ・シェネガ通りにあるそうです。ちなみにルディ・マシューズ邸は[Pineview 417]パイン・ビューにあるそうです。

監督:ハイ・アヴァーバック
脚本:ジャクソン・ギリス
音楽:ビリー・ゴールデンバーグ

デイル・キングストン:ロス・マーティン(声:西沢利明
エドナ・マシューズ:キム・ハンター(声:関弘子)
ルディ・マシューズ:ロバート・シェイン
トレーシー・オコーナー:ロザンナ・ホフマン(声:杉山佳寿子)
フランク・シンプソン:ドン・アメチー(声:八奈見乗児
マチルダ・フランクリン:ジョアン・ショーリー(声:麻生美代子
サム・フランクリン:ヴィック・テイバック(声:西尾徳)
ヌードモデルのクリス:キャサリン・ダーク
ワイラー課長:バーニー・フィリップス(声:たてかべ和也
ガードマン:レイ・ケロッグ
駐車番:デニス・ラッカー
画廊のご婦人:サンドラ・ゴールド
エバンス執事:カート・コンウェイ(声:矢田稔
大家のマーサ:メアリー・ウィックス
庭師:レイ・バラッド
サリー巡査:不明
画廊の老婦人:レオダ・リチャーズ
画廊の紳士:ミッキー・ゴールデン
 
加筆:2024年11月4日