- 「ぼろんこの名作選」に選ばれています。
- オリバー・ブラント「メルセデス・ベンツ・350SE」
刑事コロンボの中では、第6シーズンに属する後期的作品。背景は世界でトップレベルのIQを持つ人が集まる「シグマクラブ」で起こる殺人事件。クラブのメンバーである会計事務所の経営者オリバー・ブラントが友人で共同経営者、しかもシグマクラブのメンバーでもあるバーティを殺害。動機は、オリバーの横領を知ったバーティが、世間に公表すると脅したためです。
動機は十分。バーティはかねてより友人オリバーの言動に対し、強い不快感を抱いていて、その腹いせに彼の身辺を探ったため、不正が発覚します。常日頃から周囲にバカにされている人は、たとえそれに悪意が薄かったとしても、いつか許せなくなるものなのでしょう。
トリックは緻密だが、天才集団を感じさせない
この作品の特長は他の作品と比較し「殺害のトリックが異常に緻密」であること。それが大きな要素となりすぎて、「世界でトップレベルのIQを持つ人が集まるクラブ」の存在感は逆に薄くなっている点が惜しいです。一部の登場人物を除いて、あまり頭の良い人の集団と思わせてくれません。
また原題の「The Bye-Bye Sky High I.Q. Murder Case」は「空高いIQの殺人事件」のようなイメージですが、邦題ではむしろ音楽にスポットを当てたようですね、残念でした。
トリックに凝りすぎて、現実味がないとも感じます。傘の中で破裂した爆竹の音が果たして銃声に聞こえるだろうか?音楽のボリュームを絞り、犯行後にプレーヤーのカバーを閉めておけば、もっと怪しまれなかったはず。犯人が頭脳明晰のわりには短気で、容疑をかけられる素性を持っているなど。また、これは微妙な判断ですが、解決シーンで「赤いペンが落ちるほんの一瞬前に辞書が傾き始める気がする」点も‥。ただ、そのようなことを差し引いても、楽しめる作品であることは確かです。
天才オリバー・ブラントは可愛い
大草原の小さな家
奥さんからは「オリバーちゃん」呼ばわり
脇役ソレル・ブークが良い
ウエイトレスのお姉さんが怖い
女優ジェイミー・リー・カーティス
エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
ジェイミー・リー・カーティスは2022年公開の映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」では、第95回アカデミー賞「助演女優賞」を受賞しました。ウエイトレスのお姉さんから、なんと45〜6年。快挙ですよね皆さん。
ハワード・マクギリン
こっちは浮かばれないアルビン
会計事務所の受付女性
天才少女キャロライン
支部長のダンジガーさん
シグマクラブ会員のワグナー
アイゼンバックさん
メルビル夫人の肖像画
チャイコフスキーの幻想序曲「ロメオとジュリエット」
この作品、邦題「殺しの序曲」で、作品中に登場するクラシック音楽はロシアの作曲家チャイコフスキーによる幻想序曲「ロメオとジュリエット」。私の持っている音源はシャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団によるもので、20分33秒という長い演奏時間の14分12秒に、オリバー・ブラントが再生位置を設定した「第二主題による美しいメロディ」を向かえます。おそらくオリバーは特にお気に入りだったのでしょう。当時のステレオでこの位置から自動再生するには「一度手動で記憶」させる必要があると思われ、ここでも彼の無邪気な性格が伺えます。
人間コロンボを感じられる会話で、自分を見つめ直す
シグマ協会で向かえるラストシーンの一場面で、天才オリバーの苦悩や、コロンボ警部の人間哲学に触れることができます。オリバーは神童と呼ばれ苦しんだ幼少期を語ります。私は神童と呼ばれた経験はありませんが、子供の頃から「わざと頭が悪く見られるように振る舞っていました」。その方が周囲と楽しく過ごせるからです。一方コロンボは、自分は決して秀才とは言えない素材だが、粘り強くしつこく頑張ればきっとモノになる。と答えています。今の私はこの心境です。全力を尽くさず人生を終えることなんてあり得ないですね。コロンボにとって、天職とも言える刑事。その姿に自分の生きる指針を見つけ出すことができました。
「殺しの序曲」は意外と深い作品かも
先述のオリバーとコロンボの会話。それ以外にも、「いじめっ子、いじめられっ子」「天才と凡才」「気持ちの通じない夫婦」「出世を競う二人の秘書」など、殺人事件の周囲で見られる人間関係が面白く描かれています。
なかでもオリバーとバーティの関係は特に興味深いです。バーティのことが好きなオリバーは行き過ぎた愛情表現から逆にバーティから嫌われ、それが横領を暴露される危険を増大させます。本当に頭が良ければ「相手から嫌われない工夫」をもって世を渡れるはずなのですが、最も短絡的な解決方法「殺人」を実行するのも皮肉に感じます。
ラファイエット・パークは、例のオリバーが拳銃を捨てるシーンでもあり、公園内にはウエイトレスに睨まれるドーナツのカフェもあります。会計事務所の所在地もこの近辺でしょう。
監督:サム・ワナメイカー
脚本:ロバート・M・ヤング
オリバー・ブラント:セオドア・バイケル(ビケル)(声:田中明夫)
ビビアン・ブラント:サマンサ・エッガー(声:横山道代)
バーティ・ヘイスティング:ソレル・ブーク(声:高木均)
ジェイスン・ダンジガー:バジル・ホフマン(声:田中明夫)
キャロライン:キャロル・ジョーンズ
ワグナー:ジョージ・スパーダコス
アイゼンバック:ドリー・トムソン
マイク:ケネス・マース
アンジェラ:フェイ・デ・ウィット
ウエイトレス:ジェイミー・リー・カーティス
ジョージ・カンパネラ:ハワード・マクギリン(声:納谷六朗)
アルビン・メッツラー:ピーター・ランパート
会計事務所の秘書:ミッチ・ロジャース
バーの女性スージー:キャスリーン・キング
バーク刑事:トッド・マーティン
シグマクラブ会員:マイク・ラリー
加筆:2024年8月29日