11話「悪の温室」

The Greenhouse Jungle / 1972

ランの栽培家ジャービス・グッドウィンは、莫大な遺産を受け継いだ甥トニーの狂言誘拐を計画。成功の後、甥を射殺し身代金を横取りしたというお話。事件の背景にはおそらく「ランの栽培で儲かっていない」「甥の嫁の素行に腹を立てていた」ということもあるのでしょう。(原語では「グッドランド(Goodland)」という姓が正式なようです)

レイ・ミランドがピカイチ!

レイ・ミランドこの「悪の温室」は見どころが満載の作品でした。まず犯人のレイ・ミランドが素晴らしかったです。4話の「指輪の爪あと」で夫人を殺害されたケニカット氏とヘアースタイルに変化(笑)はあったものの、流石の演技でした。

グッドウィン伯父さんは毒舌を連射

犯人のジャービス・グッドウィン伯父さん(レイ・ミランド)は、数在るコロンボシリーズの犯人中、もっとも「ひねくれた性格」だったとも言えます。口を開く度に「憎まれ口」を連射。とにかく口が悪い人でした。それがミランドの表情・台詞と相まって、独特な悪人像を作り出していましたね。日本語版の臼井正明さんも良かったのでしょうね、音声言語を切り替えてみても違和感が全くなかったです。車の襲撃を偽装するために銃を構えたグッドウィン伯父さんがトニーに向かって「どいてくださらんか、坊や」と吐き付ける台詞は見事。

オスカー俳優レイ・ミランド

1945年の映画「失われた週末」ではアカデミー主演男優賞を受賞しています。まだ38歳の若々しいレイ・ミランドに会えますよ。Amazon Prime VideoなどのVODで見られる場合もありますので、ぜひチャレンジしみてください。

決め手となった「第3の弾」

コロンボがジャービスの温室で「金属探知機」を使って発見した「第3の弾」は事件解決の決め手になりました。が、よく考えてみますと‥ジャービスの銃(未登録)とキャシーの銃(登録済)をすり替えても、銃違いでバレちゃうのでは?とも、思いますね。銃本体にシリアル番号など、あるでしょう?

ウイルソン刑事

ボブ・ディシー次に相棒役のフレデリック・ウイルソン刑事(ボブ・ディシー:声野本礼三)。登場の場面から事件解決までコロンボ警部を補佐、あるいは捜査の指揮をとっていました。コロンボシリーズでは事件解決の流れに影響する刑事役の起用は珍しいのですが、このウイルソン刑事は特に印象に残る人でした。

事件現場での転落シーンは早回し?

テレビ番組で三谷幸喜氏が語っていた「転落シーン」は、何度見ても笑えますね。自分には少し早回しで再生しているのではないか?と思えました。転落後にそのまま撮影が続いていることから、アクシデントではなく「狙って作ったシーン」だと考えましたが、それにしても凄い!刑事コロンボはアクションシーンに頼らず、ストイックな程「犯人と刑事の会話」にこだわったドラマですが、こうした「ユニークで笑えるシーン」を盛り込むことにも情熱を注いでいますね。

グローバー刑事は万年ヒラか?

ロバート・カーンズ年齢の割には平刑事の「グローバー刑事(ロバート・カーンズ)」は、20話「野望の果て」バーノン刑事として再登場します。両者とも寡黙ですが存在感がありますね、出来れば同じ名前にして欲しかったです。参照:「ロス警察の気になる同僚たち」

被害者の夫人キャシーの家宅捜査で年下のウイルソン刑事から手足のように使われて、少し気分を害していたのでしょう。その後コロンボ警部の言いつけで弾道検査の報告を持ち込みむ際に、少し自慢げな顔を見せていました。

被害者のトニー・グッドウィン

ブラッドフォード・ディルマン伯父さんの罠にはまって殺害される甥のトニー(アンソニー:演ブラッドフォード・ディルマン)の日本語吹き替え版の声優は、山田康雄さんでアニメ「ルパン三世」で有名ですね。

妻のキャッシーも強者(つわもの)

サンドラ・スミス(Sandra Smith)殺害されたトニー(アンソニー・グッドウィン)の妻、キャッシー(サンドラ・スミス Sandra Smith:阪口美奈子)もなかなかの強者。おじのジャービスの毒舌に負けじとばかり、チクチクと皮肉めいた言葉を吐いています。

ストーリー後半で夫殺しの容疑(濡れ衣)をかけられた妻キャシーが警察本部に連行される途中に、ジャービス・グッドウィン邸に呼び戻されて…
コロンボ警部「奥さん今晩は。お疲れでしょう、とにかく…おかけください」
キャシー「いいえ結構、私立ってます。(どうせ)刑務所に入ればゆっくり休めるんではありませんこと?」と突っ込んだのは、鋭い切れ味でした。

邦題は「悪の温床(おんしょう)」のパロディ

悪の温床とは、悪人・悪事や悪い思想を助長する場所のような意味で使われます。それを「温室」とかえて邦題化したのでしょうが、ジャービス・グッドウィンの悪人ぶりとイメージが合致して、こっけいで可愛い印象すら与えています(笑)

「不気味とユーモア」両極端な印象の不思議な作風

お気づきとは思いますが、この作品の特長として「不気味な音楽」を挙げたいと思います。しかしその反面、セリフは皮肉やユーモアに溢れています。この両極端な2つの要素が独特な雰囲気を醸しています。

可愛らしい「グロリア・ウエスト」

アーリーン・マーテル(Arlene Martel)トニーの受付嬢「グロリア・ウエスト」を演じるのは女優:アーリーン・マーテル(Arlene Martel)です。この人は25話「権力の墓穴」でウェクスラー宝石店の女性として再登場します。グロリア・ウエストはブロンド、ウェクスラー宝石店の女性はブルネットですので少し印象が異なりますが、間違いなく同じ女優さんで大きな感動です。

宇宙大作戦とサンドラ・スミス

サンドラ・スミストニーの妻キャッシーのサンドラ・スミスは宇宙大作戦(スタートレック)の「変身!カーク船長の危機」で、カーク船長の元恋人役も演じています。カーク船長に変身してしまうという、大役でした。

宇宙大作戦とアーリーン・マーテル

アーリーン・マーテルそしてトニーの受付嬢グロリアを演じたアーリーン・マーテル「バルカン星人の秘密」で、スポックの婚約者プリング(バルカン人)役で出演しています。ハクション大魔王の「アクビちゃん」みたいで可愛いですよね。1967年の作品で、悪の温室より5年ほど前。

同じマンションに住んでいる?

刑事コロンボのマンションところでグロリア・ウエストと22話「第三の終章」のアイリーンのマンションは同じ外観です。二人がご近所さんであることは間違い無し。
マリーナ・デル・レイ

マリーナ・デル・レイ

キャッシー夫人のヨットハーバーは「マリーナ・デル・レイ」で、31話「5時30分の目撃者」のマーク・コリアーのヨットハーバーと同じ場所です。
マリーナ・デル・レイ

監督:ボリス・セイガル
脚本:ジョナサン・ラティマー
音楽:オリヴァー・ネルソン

ジャービス・グッドウィン:レイ・ミランド(声:臼井正明)
フレデリック・ウイルソン刑事:ボブ・ディシー(声:野本礼三
トニー(アンソニー)・グッドウィン:ブラッドフォード・ディルマン(声:山田康雄)
キャシー・グッドウィン:サンドラ・スミス(声:阪口美奈子)
グロリア・ウエスト:アーリーン・マーテル(声:北浜晴子)
ケン・ニコルズ:ウイリアム・スミス(声:津嘉山正種)
グローバー刑事:ロバート・カーンズ(声:寺島幹夫

加筆:2023年1月4日

20話「野望の果て」

Candidate for Crime / 1973

動機は十分と言えそう。

ケン・スウォフォード上院議員候補ヘイワード氏が自分の選挙参謀ハリー・ストーン(ケン・スウォフォード)を殺害します。被害者ストーンはヘイワードの不倫の秘密を知っており「愛人と別れるように」命令したことが直接要因となっています。動機はそれだけではないのでしょう。脇役であるはずの選挙参謀が主人公である上院議員候補に対し「自分の操り人形になれ」とばかりの横柄な態度を見せています。

冒頭シーンのBGM

このどこか不気味な雰囲気のする音楽は、24話「白鳥の歌」や25話「権力の墓穴」にもアレンジを変えて使われています。印象的な曲で大好きです。

YouTube「野望の果ての冒頭シーンをパソコン演奏で再現」しました。音楽もお好きな方は、こちらもご覧ください。(*ご注意:YouTubeへのリンクは音が出ます!)

脅迫に屈しない候補者をジャッキー・クーパーが好演。

ヘイワード氏はたとえ脅迫されようとも屈せず、犯罪撲滅を訴える勇気ある候補者を演じようとしていました。脅迫犯がストーンを殺害することで「同情票と邪魔者抹殺」の一石二鳥を狙ったのでしょう。それにしても選挙前の最も大切な時期に、身近な人物を殺害してしまうというリスキーな行動に出るでしょうか?

しかし、それを納得させちゃうようなキャラクターが犯人のネルソン・ヘイワード(ジャッキー・クーパー)です。全編に彼の人間臭さ、幼稚さが描かれています。ヘイワードはコロンボの執拗な捜査に腹を立て、嫌悪感を露にします。そして愛人と本妻との板挟みで、徐々に選挙どころではなくなっていきました。

日本語版吹き替えは初代風車の弥七。

日本語版吹き替え:中谷一郎(なかたにいちろう)さんはテレビ時代劇「水戸黄門」の初代「風車の弥七」としてもお馴染みの俳優さんです。

待たされた選挙事務所での観察眼

夫人と仲睦まじい演技を見せるヘイワード。それを不愉快そうに眺めるリンダ。新調した上着を届けに来る男性。「妻の秘書であるはず」のリンダと執務室で二人きりで打ち合わせをしているヘイワード。コロンボは待たされている間、そんなことを観察しています。

ヘイワード候補の説明は、ことごとく却下。

執務室では、コロンボの疑問を解決すべく答えた「アドバイス」が、ことごとく跳ね返され次第に追いつめられていきます。

行動がいちいちわざとらしい、ヘイワード氏。

後半で妻の秘書リンダに「脅迫状が届いたことを告げる」シーンは面白いです。すごくわざとらしいヘイワードの表情と口調を楽しめます。また、テレビ演説の収録場面はコロンボと奥さんの会話で気が散ってしまうヘイワードさんも可愛いです。

選挙対策室ベランダの爆竹は大減点!

ラストの自作自演の場面では、ベランダに爆竹の燃えカスが残ったはずで、これが「減点対象」となりこの作品の支持者を大幅に減らしています。たった今銃撃されたことを周囲に認めさせる工作ですが、かなり無理があります。この爆竹問題ですが何度見ても納得できず、「傑作選」からワンランク降格し「名作選」に移動しました。

「野望の果て」は出演者のキャラクターが光ります。

犯人役のヘイワード氏を筆頭に、憎まれ役の参謀ハリー・ストーン、美人秘書のリンダ、夫人のビクトリアなどなど。とても魅力的な脇役が揃っています。

ジャッキー・クーパーのラストの表情は切ない

ジャッキー・クーパー演技が軽いという評もあるようですが、刑事コロンボの犯人役で最も印象に残る人のひとりです。また彼が逮捕されるシーンではコロンボ警部の「はい。はい。はい。はい。いいえ。」という名台詞が登場します。そして「あなたを逮捕します」と言われた直後のジャッキー・クーパーの表情「目を閉じる演技」は哀愁が漂います。

初期コロンボの美人秘書の典型?

ティシャ・スターリングこの作品「野望の果て」の脇役ヘイワード夫人の秘書のリンダ(ティシャ・スターリング Tisha Sterling)は、コロンボ作品に登場する若い美女像の典型のように感じます。その後に登場する26話「自縛の紐」の犯人マイロ・ジャナスの秘書ジェシカ・コンロイにも共通点を感じました。

リンダは真面目で正直者だから…

リンダはコロンボの執拗な聞き込みに対して「何も知りません、失礼します。」と、一刻も早く立ち去ろうとします。しかしヘイワードの人格性について聞かれると、好意を抱いていることを見透かされ、ハリー・ストーンをよく思っていないことを力説してしまうなど、正直すぎて益々疑われてしまうのです。

刑事コロンボで最も素敵な「犯人の奥様」の一人

ジョアンヌ・リンヴィルヘイワード夫人はジョアンヌ・リンヴィル(Joanne Linville)で、シリーズ中で最も素敵な「犯人の奥様」だったと思えます。夫の選挙活動の手伝いから、不倫疑惑の浮上、殺人犯人へと転落するまでの心の動きをよく表現していました。

テレビ演説でのカメラ撮りのシーン

テレビ演説でのカメラ撮りでの彼女とコロンボ警部とのやりとりは楽しく描かれていましたね。コロンボから「ハリー・ストーンが頑丈な腕時計を所有していた」と…テントの柱でコツンと音を立てられ、ビクッとする仕草が可愛かったです。その他のシーンでも、夫の行動に疑惑を感じつつも、愛は失っていない妻の心情がよく出ていました。

宇宙大作戦

ジョアンヌ・リンヴィルこのジョアンヌ・リンヴィルは、同時代の人気SFドラマ宇宙大作戦の「透明宇宙船」で、ロミュラン人の司令官役で出演しています。さすがの美しさで本作のゲストスターで主役級です。ロミュラン人とバルカン人の先祖は同じだと言うことで、このような眉と耳です。

ヘイワード夫人の親友はミシンのおばちゃん

ルシール・メレディスコロンボファンの方より教えていただいた情報ですが、ヘイワード夫人の親友「ルーシー」は24話「白鳥の歌」で「ミシンのおばちゃん」と同一人物「ルシール・メレディス(Lucille Meredith)」さんです。

まさか奥様まで殺害?

自宅の(びっくり)バースデイパーティの冒頭シーン。まさか奥様までついでに殺してしまうのか?と思わせる効果的なシーンでした。その後、明るくなった部屋で「奥様に会うためにそんなに手数をかける‥」のセリフがルシール・メレディスさんです。

なんで名前が違うの…?

ロバート・カーンズヘイワード氏の警備を担当したバーノン刑事は、11話「悪の温室」でグローバー刑事として登場していましたね。両役とも良い味を出していたと思います。演じるのは「ロバート・カーンズ」という俳優さん、この人は大好きです。
参照:「ロス警察の気になる同僚たち」

ヘイワード候補の護衛の責任者

リジス・コーディックヘイワード候補の護衛の責任者で、殺害されたのがストーンだと分かると、その捜査をコロンボに任せる上司は俳優「リジス・コーディック」。この人は前作の19話「別れのワイン」でエイドリアンの友人ルイスを演じています。

ロハス刑事

ジェイ・バレラ前半で選挙対策室の駐車場から立ち去るヘーワード(本当はストーン)の車を追いかけ、跳ねられそうになるのがロハス刑事:ジェイ・バレラです。その後は2度と失敗しないよう、ギラギラした目つきでヘイワードに張り付いて護衛する姿がとても印象的。この人は33話「ハッサン・サラーの反逆」でオルテガ警部として再登場しています。

チャドウィック紳士服店

ヴィトー・スコッティチャドウィック紳士服店のマネージャーは名優ヴィトー・スコッティ。犯人のネルソン・ヘイワード氏の行き付けの紳士服店で、コロンボ警部が自分もボウリング祭り用のジャケットを作って欲しいと依頼し、軽くあしらわれるシーン。仕上がりの期日を告げられて態度を一転するのがこっけい。

ジュード・フェアズ

ジュード・フェアズコロンボ警部が「プジョー403」を運転中に検問される際に登場する若い方の警官役のジュード・フェアズは26話「自縛の紐」で健康クラブの清掃員:マーフィとして再登場しています。愛嬌のある表情が素敵です。ワイパーのぎこちない動きに唖然としてました(笑)

同行の警察官も可愛いおじさん

サンディー・ケニオンジュード・フェアズと共にコロンボ警部の「プジョー403」を検問する警察官は「サンディー・ケニオン」。必ず車を修理するように警告します。時間稼ぎのようなシーンですが、この後「車を整備に出しヒントを得る」ことにつながっています。

ガゾリンスタンドの整備士

ジェームス・G・リチャードソンコロンボの「プジョー403」を修理した整備士シェリーは、ジェームス・G・リチャードソン。修理費が高いだの、変装して捜査か?だの、楽しい会話のシーンです。事件当夜にはガソリンが売り切れて、店を早仕舞いしたという重要な証言を得て、高い修理代が帳消しになりました。

テレビのアナウンサー

クリート・ロバーツ選挙速報のテレビ番組のアンサウンサーは、「クリート・ロバーツ」で俳優というより実際にアナリスト的に活躍されていた方のようです。5話「ホリスター将軍のコレクション」でもアナウンサーとしてテレビに写っています。

同じ風景画が、最低でも3回出現。
ブログゲストさんから情報をいただき検証しました。レイ・フレミングのマンション、ネルソン・ヘイワードのホテルの風景は同じでした!さらに調査した結果、ケイ・フリーストンのオフィスの窓にも出現しています。

レイ・フレミングのマンションの風景1

ネルソン・ヘイワードのホテルの風景20

ケイ・フリーストンのオフィスの風景43

ヘイワードの別荘はマリブ

ヘイワードの別荘
ヘイワードの別荘はLA西部のマリブの海岸沿いです。コロンボが車を修理したガソリンスタンドとの距離感も参考にするとさらに楽しめます。

監督:ボリス・セイガル
脚本:アービング・パールバーグ 他
原案:ラリー・コーエン
音楽:ディック・デ・ベネディクティス

ネルソン・ヘイワード:ジャッキー・クーパー(声:中谷一郎)
ビクトリア・ヘイワード:ジョアンヌ・リンヴィル(声:稲野和子)
リンダ・ジョンソン:ティシャ・スターリング(声:津田京子)
ハリー・ストーン:ケン・スウォフォード(声:鎗田順吉)
紳士服店主チャドウィック:ヴィトー・スコッティ(声:石井敏郎)
バーノン刑事:ロバート・カーンズ(声:藤本譲)
ビクトリアの友人ルーシー:ルシール・メレディス
ビクトリアの友人:ダイアン・ ターレイ・トラヴィス
検問の警察官1:ジュード・フェアズ
検問の警察官2:サンディー・ケニオン
整備士シェリー:ジェームス・G・リチャード
テレビのアナウンサー:クリート・ロバーツ
歯医者メレンチョ:マリオ・ガロ
ロハス刑事:ジェイ・バレラ
選挙スタッフ:マイク・ラリー

加筆:2023年1月4日

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