9話「パイルD-3の壁」

Blueprint for Murder / 1972
フォレスト・タッカー私は小学生の頃に初めて刑事コロンボシリーズを見て、それ以来のコロンボファンなのだが、第1シーズンの中で最も記憶に残っていたのがこのパイルD-3の壁。建築家のエリオット・マーカムが出資者のウィリアムソン氏(フォレスト・タッカー)を殺害し、しかも「死んだように見せない」要するに「生存しているが行方不明」に見せるというお話。

大胆な死体遺棄計画

エリオット・マーカム原題の「Blueprint for Murder」にはパイルという単語が入っておらず、ぼろんこ風に訳すと「殺人の青写真」といった感じ。邦題「パイルD-3の壁」は一見、殺害のトリックを題名にしてしまっている気がするが、むしろそれよりも最後にコロンボ警部が語った「一度捜査された場所に、遺体を隠そうとした」という、犯人エリオット・マーカム(パトリック・オニール)の「恐るべき大胆な死体遺棄計画」が見どころだったのでしょう。このパトリック・オニールは、43作「秒読みの殺人」にもテレビ局の重役フラナガンで出演しています。

緊張感の漂う掘り起こしシーン

工事現場でパイルを掘り起こすシーンでコロンボ警部が缶コーヒーのようなものを飲み干す場面には、リアルさを感じます。しかし、マーカムの言動から死体遺棄計画を察知したコロンボ警部は、その作戦に乗じた形で一度パイルを掘り起こし、まんまと罠にかかった「演技をしていた」というのです。それを承知でもう一度見てみると面白いです。

秘書シャーマンさん

ベティー・アッカーマンマーカムの秘書シャーマンさん(ベティー・アッカーマン)は、何と32話「忘れられたスター」で夫ヘンリーを演じた俳優「サム・ジャッフェ」が実の夫。いろんな所で人物が繋がっていてとても面白いですね。(2021年のコメンテーターさん情報)

わかりやすい手掛かりが…

今回は、割と分かりやすい「容疑者特定」のヒントもあります。ウィリアムソンシティの一件で、建築家マーカムと出資者ウィリアムソンの仲が抜き差しならぬ状況だった証人が、秘書シャーマンさんなど複数存在します。カーラジオの不思議を発見したことは、コロンボ警部ならではの観察眼ですが、殺人(死体遺棄)行為の最中、被害者の車のカーラジオを自分の好きな音楽にチューニングし直すことは不自然で、視聴者にわかりやすくストーリー展開させるために必要だったと想像できます。

無駄だとは思わせないシーン

クリフ・カーネルまた、遺体移送中の車が高速道路でパンクし、白バイ警官(クリフ・カーネル)にトランクを開けられそうになり困る場面は、ラストの解決シーンに向かう中では無意味にも感じますが、犯人の「あとは遺体を捜査後のパイルに埋め直せばすべて終わる…」という、最後の大仕事を前にした心情を描いているのでしょう。

犯人を捕獲するエンディングは見事

ラストシーンは圧巻です。「指輪の爪あと」「白鳥の歌」でも同じ手法です。暗い中で犯人が決定的な行動を起こす最中に、スポットライト(車のヘッドライト)などが突然照射され、獲物を捕らえるというもの。この効果は絶大で、度肝を抜かれた犯人は、潔く観念します。(指輪の爪あとのブリマーは、それでも抵抗しようと試みましたが…)
このラストシーンのBGMは作曲家「ギル・メレ」によるもので、まさに4話「指輪の爪あと」と同じメロディーなのです!

ジャニス・ペイジ

ジャニス・ペイジ「いいえ、死んでるわ」のセリフで登場する、被害者ウィリアムソン氏(フォレスト・タッカー)の前妻ゴールディ役のジャニス・ペイジはとても印象に残りました。なかなか奇抜なファンションですが、似合っていますよね。ジャニスは1922年生まれで、この時なんと50歳、信じられない若さです!2021年(この文章を書いている今)99歳でご存命。

パメラ・オースティン

パメラ・オースティン若い奥様役はパメラ・オースティン(当時31才)で、ジャニス・ペイジ(当時50才)と比べると確かに若い。パメラも2021年11月現在、79歳でご存命。

ジョン・フィネガン

ジョン・フィネガン現場監督のカール(赤いヘルメット)はジョン・フィネガンで、ダフィー警部や新シリーズの「バーニーの店」オーナーなども演じる名脇役です。

サングラスの作業員

バート・グリーンパイルを掘り起こすシーンで大写しになるサングラスの作業員は俳優バート・グリーン。この人は2話「死者の身代金」で裁判の傍聴人、15話「溶ける糸」の病院で掃除機をかける人で出演しています。

モス医師

ジョン・フィードラーウイリアムソンの主治医モス医師は俳優ジョン・フィードラー。日本語版では声優:矢田稔さんの名調子もあって、とても可愛い感じのキャラクターで大好きです。

建築局では待たされたあげく…

ロバート・ギボンズ建築局で待たされるシーンはとてもユニーク。技術課ではさらに長い行列ができていて、その果てに担当者(ロバート・ギボンズ)お昼休み。少ない台詞で淡々と描かれますが、楽しいです。この役人のおじさんは36話「魔術師の幻想」で、ロス市警の署員として再登場します!

行列に並ぶ男性1

マイク・ラリーこの長蛇の列には伝説のエキストラ俳優マイク・ラリーも並んでいます。セリフはないのですが、やはりその存在感を示しています。

行列に並ぶ男性2

並ぶ人そして、この列の中に眉毛の濃い男性が映りますが、これは似ているものの‥エキストラ俳優ゲーリー・ライト。とは別人のようです。この俳優さんは、20話「野望の果て」のハリーストーン殺害現場にも刑事として登場しています。

エリオット・マーカムが聴いていたクラシック音楽

マーカムはクラシック音楽が大好き。事務所で血染めの帽子について思案する場面では、ブラームスのピアノ協奏曲第2番を聴いていました。特に第2楽章が印象的。その他、モーツァルトのピアノ四重奏曲第1番-第1楽章、ベートーベンの弦楽四重奏曲第1番-第1楽章も使用されているらしいです。これらは今後確認します。

大草原の小さな家

フォレスト・タッカーウィリアムソン役のフォレスト・タッカーは、同時代の人気ドラマ「大草原の小さな家」の「父さんの友情」で、木こり名人のジム・タイラー役で見ることができます。テレビで見たときは気づかなかったのですが、コメンテーターさんのヒントにより調べましたら、確かにフォレスト・タッカーでした。

ウィリアムソンの牧場

ウィリアムソンの牧場は、LA北西部のサウザンド・オークス近くにあります。この辺りは牧場や農場が多くあり、27話「逆転の構図」で「ガレスコ夫人が誘拐された農家」、65話「奇妙な助っ人」のマクベイ牧場もこの付近です。一方、エリオット・マーカムのオフィス、とパイルを掘り起こしたビルの建設現場は、ともにビバリーヒルズの南より(センチュリー・シティ周辺)に位置します。

刑事コロンボマップ
刑事コロンボマップ

監督:ピーター・フォーク
脚本:スティーブン・ボチコ
音楽:ギル・メレ(エンディングだけだと思われるが‥)

エリオット・マーカム:パトリック・オニール(声:川辺久造)
ボー・ウィリアムソン:フォレスト・タッカー(声:勝田久)
前妻ゴールディ:ジャニス・ペイジ(声:中西妙子)
妻ジェニファー:パメラ・オースティン
現場監督カール:ジョン・フィネガン(声:加藤治)
モス医師:ジョン・フィールダー
警備員:ニック・デニス
マーカムの秘書シャーマン:ベティー・アッカーマン
行列に並ぶ男性1:マイク・ラリー
行列に並ぶ男性3・工事現場の監視役:レン・フェルバー
建築局の職員:ロバート・ギボンズ(声:水鳥鉄夫)
モス医師:ジョン・フィードラー(声:水矢田稔)
白バイ警官:クリフ・カーネル
パーティ客:キャスリン・ジャンセン

加筆:2024年9月4日