Any Old Port in a Storm / 1973
プロローグ
ワイン醸造会社経営者のエイドリアン・カッシーニ(ドナルド・プレザンス)は、父の遺産を受け継ぎ、腹違いの弟リックはワイン醸造会社を受け継ぐ。しかし、弟リックは経営には無関心で、実質上の経営者である兄を差し置いて、大手(量販)酒造会社にワイナリーを売却することを告白。
兄弟の確執
ワインとワイン作りをこよなく愛する兄エイドリアンは逆上し、リックを殴打してしまう。兄は「金にしか興味の無い低能で下品な弟」とリック(ゲイリー・コンウェイ)を見下し…、殺された弟リックは「飲めもしない程の高額ワインを買っている道楽者」と兄エイドリアンを変人扱い。この兄弟の対比も面白く描かれます。
作品としての品格を感じる「別れのワイン」
ストーリーは終止美しく展開しています。イタリア風のBGMを多用した他に、不規則に聞こえる「鐘のような音」がとても印象的で、特にエイドリアンの犯行隠避(いんぴ)の場面で多用されます。犯人のエイドリアンは決して悪人ではなく、怒りにまぎれて殺人を犯した。このまま罪を背負って「美しくない」余生を送るのも、喜ばしいことではないと感じています。その点では、後の作品28話「祝砲の挽歌」のラムフォード大佐の心情にも類似点を感じました。
ジュリー・ハリスは可憐
秘書のカレン・フィールディング(ジュリー・ハリス)は清楚で美しく描かれていました。コロンボ警部と初対面時「お遊びの相手は御免被りたいですわ」のセリフは絶妙。そのカレンが話の後半で一転し、エイドリアンを脅迫するのは、とても面白い展開でした。「つまらない理由で結婚するカップルはいくらでもいる。」と、彼に結婚を迫るシーンは哲学的です。また自宅でのシーンで、この後見たいテレビの「アラン・ラッド」は、あの名画「シェーン」の主役シェーンの人です。
カレンとジャニスの服がお揃い
リックの婚約者
名前はジョーン・ステーシー
(ジョイス・ジルソン)。ですが本編で一度も名前が登場していない気がしませんか?彼女はお金が目当てではなく本当にリックを愛していた感じです。彼女が「家出捜索」を頼みに来たことで、事件発覚の前に、しかも殺人事件でもないのに、早い時間帯にコロンボが登場できています。
刑事コロンボをさらに楽しめる俳優
後半のレストランのシーンに登場します。この
ヴィトー・スコッティという脇役俳優さんの魅力を発見できたら、刑事コロンボの世界への入口を見つけたことと同じ意味ではないかと思います。
この俳優さんも良い!
ヴィトー・スコッティと一緒に叱られたワインをペチャペチャと飲み直すワイン係の男は「モンテ・ランディス」。この人も良い味を出しています。
リックの死亡原因を解説する専門家
バーで流れるテレビニュースでリックの死亡原因を解説する専門家「ウイリアム・マルチネス博士」は、15話
「溶ける糸」に登場するフローレス刑事の「ビクター・ミラン」という俳優さんです。(2024年追記)
話しかけるものの邪魔にされる
このテレビニュースを見ているシーンで、コロンボに話しかけるも無視される客は、ロバート・ドナー。会話はことごとく跳ね返されますが、天気について聞きかえされると、肝心な時には答えられませんでした。この時のバーのウエイター「あたしゃ今朝あったことも覚えちゃいませんぜ」は、有名エキストラ俳優の
「マイク・ラリー」です。
ワイン屋のオヤジ
ほんの短いシーン、コロンボがワインの知識を学ぶために訪れたワイン屋のオヤジは「ジョージ・ゲインズ」。渋い演技を見せてくれています。彼は10話
「黒のエチュード」の新聞社のエベレット役と同一人物です。
コロンボ警部がワインの銘柄を当てるシーン。バーガンディというのは、ブルゴーニュの英語名、ピノ・ノワールとギャメイ(ガメイ・ノワール)はその地方のブドウの品種です。クラレットとはいわゆるボルドーの英語名、カベニ・ソーヴィニオンはそのブドウの品種です。
ポーの小説でナントカの樽
コロンボ「ここで閉じ込められらコトですなぁ。」から始まり、エイドリアンが「アモンティラード」と答えた印象的なシーン。これはエドガー・アラン・ポーの「アモンティラードの樽」を差しています。
ワイナリー見学のガイド
カッシーニ酒造の見学のガイド役を演じるのはロバート・ドイル。一癖ありそうな表情が印象的で、とても楽しい演技を見せてくれました。カッシーニさんの厳しさに見合う報酬を得ているそうです(笑)このワイナリーのシーン、あるいはワイナリーの外観はLAではなく、サンフランシスコ近郊かもしれません。
フランク・パグリアが可愛い
カッシーニ酒造で掃除をしているオヤジさんは、フランク・パグリア。熱弁を振るったわりには、リックさんは仕事一筋ってわけじゃないけど‥とトーンダウン。イタリア系の感じがとても可愛いです。このシーンの直後電話をかける時に、コロンボ警部は初めて
「THIS OLD MAN」のメロディを口笛で吹いています。
ラストシーンも良い
「別れのワイン」と言う邦題の意味はラストシーンで見られます。コロンボとエイドリアンは車の中でワインを酌み交わします。エイドリアンはこれまでに収集したワインを全部ダメにして、海に捨てようとしました。犯行を自供し刑務所行きを覚悟する。これも俗世にさよならを言うような心境だったのでしょう。
YouTube「別れのワインのエンディングの曲」をパソコン演奏で再現しています。ワインやイタリアの雰囲気が漂う曲ですが、なぜか日本の大正ロマンにも通じる雰囲気がします。音楽もお好きな方は、こちらもご覧ください。(*ご注意:YouTubeへのリンクは音が出ます!)
人気ランキングで不動の1位獲得。
「別れのワイン」はどのような人気ランキングでも、常に1位を獲得してしまうという、不動の人気を誇ります。犯人役のドナルド・プレザンスを筆頭に、素晴らしい俳優陣。王道的なテーマ「ワイン」を扱った点でも、それが有利に働いています。
「別れのワイン」は刑事コロンボシリーズの最高傑作か?
この「別れのワイン」という作品は、コロンボシリーズの中で最高傑作であるとの呼び声が高いです。作品評を集めたサイトでは、数多くの意見が交わされています。概ね「作品としての品格や味わい」において非常に評価が高く、多くの人の支持を集めています。犯人役のドナルド・プレザンスが醸す高貴な雰囲気も好印象で、他の作品と別格であるとも感じさせます。題材がワインであることも、この作品の風格を持ち上げています。様々な意味で、この作品は味わい深いのです。
→人気作品ランキング
もちろん、私の考える「刑事コロンボシリーズの醍醐味」は、味わい深いことだけに終始しません。4話「指輪の爪あと」6話「二枚のドガの絵」15話「溶ける糸」などに登場する「憎たらしいほど強烈な犯人像」も見逃せませんよね。
おそらくチチアンにも、この美しい赤は出せなかったでしょう。
「おそらくチチアンにも、この美しい赤は出せなかったでしょう。もし試みたとしても、失敗したでしょう。」という、名台詞で始まる19話「別れのワイン」。チチアンはルネサンスのイタリア人画家だ。現在は「ティツィアーノ・ヴェチェッリオ」と呼ばれます。かつてはチチアン、ティシアンと呼ばれていたそうです。赤毛の女性を多く描いたことから、この場面で引用されたのだと思われます。
チチアン→ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
ワインへのウンチクも勉強になる
この作品はワインの知識が多く盛り込まれていて楽しめます。エイドリアンの友人たちが集まるシーンでは、ステイン(演:ロバート・エレンシュタイン)もワイングラスのフット・プレート(底の台)を持っています。これは手の体温でもワインが不味くなってしまうことへの配慮だと思われます。
ダナ・エルカーが可愛い
エイドリアンの友人でテキサスのファルコンさんを演じるのは、ダナ・エルカー。大切な筆記用具をコロンボに持ち逃げされそうになります。この人もなかなか印象深いキャラでした。歯に噛んだような表情がお茶目でしたね。
ワイン仲間のルイス
同じくワイン仲間のルイスを演じるは俳優「リジス・コーディック」。この人は次作の20話
「野望の果て」で、ヘイワード護衛の指揮をとる偉い人(副局長・次長クラス)です。
ステインさんの事務所のビル
2話「
死者の身代金」のレスリー・ウィリアムズ弁護士事務所、7話「
もう一つの鍵」のチャドイック宣伝広告社、19話「
別れのワイン」のステインさんの事務所はすべてこのビルの中にあります。
事件現場でニックの車について語る警官
煙草をくわえたコロンボ警部に「火を着けましょうか?」と話しかけ「いや節煙中で、くわえてるだけ」と断られた。その直後にやはり吸いたくなった警部から「マッチ持ってる?」と聞かれて「いえ、持ってません」と応じている!噛み合ってない二人の会話が笑えます。この警官(ジョン・マッキャン)は後の45話「
策謀の結末」で何と銃の密売人になっています。
バーで天気を尋ねられる客
バーで「先週の火曜に雨が降らなかったか?」と尋ねられ「さぁ覚えていないね」と答える男性のお客さんは「ボブ・ハークス」この眉毛の濃い俳優さん、ちょい役で何度もコロンボに出ている常連俳優です。
ワインのオークションを仕切る人
ワインのオークションを仕切る人は俳優「ウォーカー・エドミストン」で、13話「
ロンドンの傘」で、サー・ロジャーの車を洗車していた人です。
カッシーニ・ワイナリーのロケ地
カッシーニ・ワイナリーは海の近くにあったのか?
ワイナリーのロケ地はオンタリオ国際空港近くで正解だとしても、劇中ではどの辺りに位置した設定なのか?ヒントになるのは「海」です。エイドリアンはリックを海に放り投げた後、折り畳みの自転車でワイナリーに戻ります。またラストシーン近くで、ダメになったワインを海に捨てに行きます。どちらの海もマリブっぽいです。
シリーズ中、最も有名なレストラン
カッシーニ・ワイナリーの次に、ロケ地を知りたくなる場所‥それは後半に登場する「コロンボ、エイドリアン、カレンの3人がお食事をしたレストラン(写真左)」です。これまでこのレストラン所在地は確認できませんでした。2021年コメンテーターの方の助言で、店内が「セット」であることがわかりました。1972年~制作されたユニバーサルTV制作の邦題「バナチェック登場(探偵バナチェック) 」で同じセットがすでに使われていたのです。フィリックス・マルホランド書店という設定(写真右)です。話の舞台がボストンですので、おそらく店内セットをロスで再現したのだと思われます。私の推理では‥「別れのワインのレストラン」は実在しないです。ちなみに「バナチェック登場」は1977年フジテレビ系列で放送されたらしいです。
監督:レオ・ペン
脚本:スタンリー・ラルフ・ロス
原案:ラリー・コーエン
音楽:ディック・デ・ベネディクティス
エイドリアン・カッシーニ:ドナルド・プレザンス(声:中村俊一)
秘書カレン・フィールディング:ジュリー・ハリス(声:大塚道子)
エンリコ・ジョセッピ・カッシーニ:ゲイリー・コンウェイ(声:加茂嘉久)
ファルコン(ワイン仲間):ダナ・エルカー(声:神山卓三)
ルイス(ワイン仲間):レジス・コーディック
ステイン(ワイン仲間):ロバート・エレンスタイン
ジョーン・ステーシー:ジョイス・ジルソン(声:北島マヤ)
ビリー・ファイン(リックの友人):ロバート・ウォーデン
アンディー・スティーヴンス(リックの友人):リード・スミス
キャシー・マーロウ(リックの友人):パメラ・キャンベル
レストランのマネージャー:ヴィトー・スコッティ
レストランのワイン係:モンティ・ランディス
バーテンダー:マイク・ラリー
バーの客:ロバート・ドナー
バーの客:ボブ・ハークス
ウイリアム・マルチネス博士:ビクター・ミラン
オークションの人:ウォーカー・エドミストン
オークションの客:レン・フェルバー
警官:ジョン・マッキャン
ワイン店店主:ジョージ・ゲインズ
ワイン醸造所ガイド:ロバート・ドイル
掃除のオヤジ:フランク・パグリア
“19話「別れのワイン」” の続きを読む