28話「祝砲の挽歌」

By Dawn’s Early Light / 1974

作品の持った雰囲気がとても好きです。絵的な美しさ、兵学校という閉鎖された特殊なシチュエーション。他にも軍隊ものの作品はありますが、この「祝砲の挽歌」には及びません。

パトリック・マッグーハンの存在感

犯人役のパトリック・マッグーハンの存在感は抜群です。ヘインズ陸軍幼年学校の理事長ヘインズを殺害した後も「厳しい校長先生:ラムフォード大佐」が、正義(?)を貫いて生きる様を、美しく演じています。

事件が起こる背景

陸軍幼年学校の劣等生にその罪をきせる行動と相反し擁護するような言葉も…。厳しいが故に学校で孤立してしまう立場も…。生徒たちの「自供」により殺人を暴かれてしまう下りも…。流れるようにつながっています。また、学校の平面図から「陸軍幼年学校」が「男女共学のキャンパス」に改築される計画があったことを見破るあたり、コロンボ警部の着眼は流石です。

冒頭の演出も見事

廊下をこそこそと進んで行くと、砲弾の工作をしている背中が見えてくる。予め準備した材料を丁寧に加工する手元。冷静ながらも…汗がしたたる表情。丁寧に指紋を拭き取る。火薬を流すために蛇口を振り回す。外に出た時、初めてタイトルクレジットの文字が表示され、微かなドラムロールでBGMが始まる。砲台での準備を終え、後に大きな意味を持つ「りんご酒」を見つける。6分30秒を過ぎた頃、軍隊ラッパの音と共に台詞付きのドラマがスタートします。6分30秒以上台詞は一切なし、音楽もごく小さい。冒頭シーンを見ただけでこの作品がどれほど凄いかを直感します。

ラムフォード大佐

ラムフォード大佐は、自分の保身のために殺人を犯したとは思えません。むしろ間違った方向を向き始めたアメリカに対し「NO」と言いたかったのでは?私は戦争擁護の立場ではありません。ただ大佐の気持ちを考えただけです。

スプリンガー候補生

落第生のスプリンガー候補生(マーク・ホイーラー)の反抗的な態度やエピソードも上手く描かれています。彼が「大砲の誤爆は自分の責任であるはずがない」「不可能だもん*」と語る場面も印象的です。
*=実は掃除当番をさぼっている。

シロとクロを見分ける着眼点

コロンボ警部が容疑者を「ラムフォード大佐」に絞る場面は、大佐がボロ布を最初に見た時に言及を避けたのに対し、スプリンガー候補生はためらうこと無く「大砲の清掃用の布」と答えたことにあるでしょうか。ラムフォード大佐は事故の原因をスプリンガーの不始末として片付けることを前提として、この犯行計画を始めたわけであり、自分の計画どおりに進む捜査に対し、すこしだけためらいの感情が出たのでしょうか。
また、ラムフォード大佐は凛とした振る舞いの中でも、沈着冷静に計画を実行しています。被害者ヘインズとの口論の最中に、少しだけドアを開けておき、ヘインズが自ら「式典で祝砲を撃つ役目を引き受けた」成り行きを秘書に聞かせるよう工夫しています。本来なら大佐が爆死していた可能性もあることで、自分が容疑者のラインから外れるという計算です。

とばっちりを食らうルーミス大尉

注目すべき場面は、食堂でふざけている生徒を「突然のように声を荒げて叱る」大佐の態度。スプリンガー候補生についての会話中に、コロンボ警部はスプリンガーを犯人ではないと確信している。むしろ自分が疑われている‥と気付くのです。ご機嫌斜めな大佐の「リンゴ酒密造犯捜査命令」を受けるルーミス大尉のリアクションは、少し不本意そうで興味深いです。

日本語吹き替え:佐野浅夫さん

ラムフォード大佐の吹き替え「佐野浅夫」さんは素敵でしたが、ミラー当番兵(靴が汚れていた生徒)を再度呼び出して説教するシーンからしばらくの間、別の声優になっていました。佐野浅夫さんとは似ていない声で、この部分がとても残念でした。初期放送版ではカットされていたのでしょうね。重要な場面だと思いますが放送時間の関係でしょうね。

祝砲の挽歌

原題は「By Dawn’s Early Light」で直訳は「夜明けの明りで」という感じ。「挽歌」とは中国で葬送の時に柩(ひつぎ)をひく者が歌った歌で、エンディングに歌とともに訓練する響きも通じて、納得の邦題です。

クレーマー刑事が登場

後の作品でも活躍する「クレーマー刑事」が初登場。やる気があるんだか…どうだか…わかんない感じがとても良いですね。

モーガン候補生はクレーマー刑事の息子!

ヘインズ陸軍幼年学校のトイレで、高校時代の彼女の思い出話をする相手「モーガン候補生」は「ブルーノ・カービー」で、クレーマー刑事を演じる「ブルース・カービー」の息子。父ブルースは2012年現在存命だが、息子ブルーノは2006年に57歳の若さでこの世を去っています。

ヘインズ陸軍幼年学校

「ヘインズ陸軍幼年学校」はサウスカロライナ州チャールストンがロケ地だということです。ですので海外ロケに匹敵するほどの作品スケールが感じられるわけです。

監督:ハーヴェイ・ハート
脚本:ハワード・バーク
ラムフォード大佐:パトリック・マクグーハン
スプリンガ―候補生:マーク・ホイーラー
クレイマー刑事:ブルース・カービー
ルーミス大尉:バー・デベニング
ウィリアム・ヘインズ:トム・シムコックス
モーガン候補生:ブルーノ・カービー
加筆:2015年11月7日

“28話「祝砲の挽歌」” への61件の返信

  1. 【原題解釈】
    By Dawn’s Early Light
    直訳すると、「夜明けの薄明りの中で」。
    皆、聞き覚えのあるアメリカ合衆国国歌『星条旗 The Star-Spangled Banner』の冒頭の歌詞からの引用です。
    Oh, say can you see,
    by the dawn’s early light
    What so proudly we hailed
    at the twilight’s last gleaming?
    何と言っても、今回の舞台は陸軍幼年学校ですから。
    密造リンゴ酒の瓶が窓に吊るされたのは、土曜日(事件前日)の晩が最初で、事件当日の早朝6時25分、起床ラッパがなる直前に瓶はしまわれていた。事件当日の夜明けは6時15分で、その前には暗くて瓶を見ることはできない、また、窓に吊るされたリンゴ酒の瓶は砲台近くからしか見ることはできない。したがって、ラムフォードは、6時15分から6時25分までの10分間に砲台近くにいて、そこからリンゴ酒の瓶を目撃したのだというコロンボの推理と引っ掛けてるのですね。

  2. 只今AXNミステリーで配信されていて何十年か振りで、視聴しています。
    こちらのブログでこの回に、ブルーノカービーが出ているのを初めて知りました。
    ゴッドファーザーファンの私には、若き日のクレメンツァを演じていた俳優で思い入れがあり、思わず書き込みしました。
    その他マーティンシーンなども出演したりして、そういう発見も楽しいですね。

    1. ブルーノカービーは、恋人たちの予感でもいい味出してます。 キャリーフィッシャー演じるハイミスの彼氏役です。

  3. 表題はアメリカ国歌の冒頭部分ですね。
    今日初めて気が付きました。なるほどです。でも日本語訳は味わい深く素晴らしいです。

  4. クレイマー刑事のとーしろ、親玉が消えちまったの吹き替えが最高ですね。
    杉田俊也さんのしゃがれ声も合っていて。

  5. 長くなってすみません。

    食堂で大尉が上官大佐の指示に最後は無言で立ち去るのは、吹き替えでは「甘やかしてはならんぞ」となっている箇所が英語では「君は生徒たちにいいようにあしらわれているのだ」とまでいわれたからかと。侮辱的。。

    大佐が食堂を去る時に日本語では「ジャクソンを出頭させろ」とだけ言っている部分は英語では「ジョンソン、朝一番で私に報告しろ。お前がやるべきことをやってない事実には全くうんざりだ」。

    原文は嫌味を極めて直接表現で述べています。佐野さんの言葉からは微塵も感じられない部分です。かの国では人間ラムフォードを、この国では気高さを貫く大佐を、それぞれ描こうとしたのかもしれません。

  6. この作品。名もないエキストラたちの統制のとれた一挙手一投足が、劇に息吹をふきこんでいる、そう感じます。画面を見るにつけ、本物を感じます。その映像を編み出すスタッフの情熱にも頭が下がります。

    細かいところも手を抜いていません。コーヒーを運ぶ当番兵は、その姿の半分以上をブラインドに隠されてよく見えない位置にいる中で、大佐からの声がかかって初めてドア向こうで帽子を取っています。

    コロンボを夕食に呼んだ大佐はテーブルの上で右手の指を小刻みに上下させ、コロンボの口からスプリンガーへの疑念の言葉が出るのを今や遅しと待ち構えている。その平静をたもつ表情との組み合わせが、上官としての誇りと人間心理を描写した場面だとの印象を受けました。氏ならではの名演技ではないでしょうか。パンに続き、バターも取ってくれとのコロンボの言葉に、恐らくはむっとされたであろうその感情を抑えんとする表情も見応えがあります。

    そのバターに手を伸ばす前に「もしよろしかったら、スプリンガーとの会話の内容について話してくれんかね」と言ってるのが、英語では「バターを渡したら、(中略) 説明してくれるね?」と言っている。おもわず吹き出してしまいました。

    食後、2人が歩く様子を望遠で収めた映像も面白い。氏が水たまりを避けるべく右手でさりげなくピーターフォークを少し左によけさせたり、右に曲がるときにもさりげなく右腕を開いて方向を示したり。監督指示ではなく氏の自然な動きなのではと。校内のあちこちに視線を移しながら歩くそのさまは、まわりを司る台詞もない演者たちの動きとどんぴしゃで、俳優である氏が本物の校長のようにさえ見えてきます。

    ほかにも細部へのこだわりがあり、制作陣の「本物描写」への思いが詰まった作品ではないでしょうか。

  7. ブルーレイ全集を1話から見返し、ここまで進んできました。
    映像としての完成度はこれが一番良いと思いますし、お気に入りの5指に入る作品でもあります。それだけに1つの違和感がものすごくひっかかります。
    ラムフォード大佐のキャラクターとして、将来のある若い候補生に死亡事故の責任を負わせようとするいうことがどうしても納得できません。それもいきさつからやむを得ないものではなく、当初からの計画ということがうかがえます。

    自身の信念に基づく行為であるだけになおさら強く感じてしまいます。

  8. 白い薔薇のシーンはもっと続きが聴きたくなるような良いシーンでした。大佐が「軍服を脱げば、わたしも普通の人間なんです。」とでも言いたかったのでしょう。現代のパワハラ上司の言い訳のようですね。しかし、殺人はいけません。理事長が亡くなっても新しい理事長が同じ提案をするでしょうから。殺したくなるほど個人的によほど嫌いだったのでしょう。吊るされたリンゴ酒」が夜では見えないとはいえ、大砲に布を詰めるのは、さすがに夜に行うのが自然です。その点が少し引っかかりました。

    1. 宿舎に囲まれた広場の真ん中にある砲ですから暗闇で作業するには明かりが必要でしょうし、暗闇に明かりをもって歩けば目立ちます。
      明け方、起床前の一番眠りが深いであろう時間帯に犯行を行うのは自然だっと思います。

  9. はじめて書き込みいたします。
    ネットで調べてみましたところ、ロケ地の学校はサウスカロライナ、チャールストンにあるThe Citadel で、ドラマに出てきた碁盤状の広場にある学生寮も実際にあるようです。 public college とあるので州立だと思います。 アメリカには、3校ある国立の陸海空軍の士官学校(military academy)とは別に、このようなsenior military colleges が6校ほどあります。 
    ほかにもmilitary junior colleges とか、軍の奨学金をもらって一般の大学に通うROTCなどもありますが、ヘインズ陸軍幼年学校の場合は、中学〜高校生の年齢の生徒がいるprivate college-prep military schools というカテゴリーのようです。 privateのほかpublic も含めると、こういう学校は全米に幾つもあります。 トランプ大統領も子どものとき素行不良のためNew York Military Academyというprep school に放り込まれていました。

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