1話「殺人処方箋」

Prescription : Murder / 1968

記念すべき第1作 殺人処方箋

殺人処方箋 は刑事コロンボの第1作目ですが、この1話はTV映画版、2話「死者の身代金」はパイロット版に位置付けられます。刑事コロンボがシリーズ化されるのは3話「構想の死角」からです。アメリカでの放送当時は「殺人処方箋」というテレビ番組であって、「刑事コロンボ」というテレビ番組ではないのだ!と思われます。

オープニングのタイトルバックが凄い!

かつて「舞台劇として演じられた作品」を、TV用に再アレンジして制作されたパイロット版だということです。冒頭の番組名やキャストのクレジットのデザインにはびっくりしました。時代性を物語っていますね~。音楽は有名な作曲家「デイヴ・グルーシン」によるものです。それに比べ、3話「構想の死角」からはお馴染みの「右揃え・黄色のゴシック系書体(注)」という、刑事コロンボシリーズ独特のオープニング画面が定着するようです。

若々しいコロンボ

殺人処方箋 ピーターフォークピーターフォークは当時41歳。その後のコロンボ警部のトレードマークになる、レインコートもヨレヨレとまでは言えず、髪型もボサボサではないです。それでも後期の作品(新・刑事コロンボを含め)よりも、しっかりしたキャラクター性を感じられました。

少々冷酷に映ったか…

嫌気がさすような執拗な捜査、細かい矛盾を逃さない着眼点、さらには犯人を罠にかける「落とし」のテクニック。それらがふんだんに盛込まれています。少し冷酷な印象も残り、後の作品ではドジで人間臭い、愛されるキャラクターに傾いていったのかと思われます。それでも見逃せないのはラストシーン…強烈です。
また、ジョーンの供述をとろうとして、ポケットのペンを探すが見つからず、捜査員に借りている仕草が滑稽です。

主犯と共犯の動機の温度差

その後のコロンボ作品にも数回採用されている「共犯モノ」、初回からそうだったのですね。共犯者の「口封じ」は各話とも重要なポイントになり、第二殺人の被害者になるケースも多いのですが、この「殺人処方箋」のコロンボは共犯者の弱さに目をつけ解決の切り札にしました。コロンボ警部の凄さは、「主犯」と「共犯」の「動機の温度差」を共犯者に示唆し、「主犯者に利用された」という背景を引き出していることです。

殺人処方箋 ジーン・バリー主犯の精神科医レイ・フレミングは共犯のジョーンに対し、ヘマしないように細心の注意を払っていますが、これは「二人の未来のための殺害計画」ではなく、実際に利を追求しているのはフレミングのみで、ジョーンは共犯者として選ばれただけだということを、見る側に伝えています。

普通の刑事ドラマではないですよ~宣言

犯行後に、フレミングが電話の上に手袋を忘れそうで、忘れなかった演出。これは視聴者に「おっと、そんなに簡単にヒントは残しませんよ」と、語っています。また、コロンボ警部がジョーンを脅して落とそうとして「じゃ本部で供述をとりましょうね」の後、拒絶されるシーン。普通の刑事ドラマなら、これらが決め手になっちゃうところ「これくらいじゃ落ちませんよ」という、意気込みを感じました。

最初は強烈なほど「豪腕刑事」の素質があった

キャサリン・ジャスティス心が揺らぐ共犯者のジョーン・ハドソン(キャサリン・ジャスティス)に「あんたが殺したも同じだ」から「あんたを落としてあいつを逮捕する、これは約束します」の連続した台詞は、シリーズを通して最も語気を荒げたシーンの一つです。

可哀想なフレミング夫人

ニナ・フォックフレミング夫人のキャロル(ニナ・フォック)は、夫に愛想をつかしていました。夜遅く帰宅するレイを、自室でサングラス(夜なのに・家なのに)をかけて待っています(笑)しかし彼がアカプルコ旅行を計画していると弁明すると一転、機嫌が直ってはしゃいでいました。→映画「十戒」のニナ・フォック

地方検事のバート

ウィリアム・ウィンダムフレミングの友人で地方検事のバートは俳優ウィリアム・ウィンダム。この人は8話「死の方程式」でスタンフォード化学工業の副社長として再登場します。ラストの印象的なロープウェイのシーンにも立ち会った人ですね。ウィリアム・ウィンダムは、宇宙大作戦(スタートレック)の「デッカー准将」です。聞き覚えのある名前では?(笑)

コロンボ警部の刑事哲学が見えてくる

また第1話で既に、コロンボ警部の「刑事哲学」とも思える言葉を聞くことができました。それは「いくら犯人が頭が良かったとしても、殺人については素人である。しかし自分にとってコロシは仕事。たいへんな修練を積んでいるわけです…。」というもの。た、確かに。コロンボ警部の捜査手法はそうした経験に裏付けされた、「匂いを感じて動く」のような部分が大きいのです。
ずっと後の作品40話「殺しの序曲」で、オリバー・ブラントに語る場面や、44話「攻撃命令」での言葉遊びも似たような趣で興味深いです。

計画通りにはことが運ばない

この作品を何度も見返しますと、やはり「予期せぬことが起こる」ということを、細かく描いています。キャロルが死んでいなかった、ジョーンが頻繁に電話や訪問して来ちゃう、警部が約束より早く来るなど。その度に犯行がバレるかも…とハラハラします。

飛行機の機内での夫婦喧嘩

お芝居ですので、かなり声を張り上げてやってましたね。でも声が本物のキャロル奥様とは全然違う気が…。最初から少し無理のある計画だったとも言えますね。夫婦喧嘩なんて恥ずかしいことなので、周囲に聞こえないように‥小声ですべきだった。それでも喧嘩が原因で、キャロルが飛行機を降りたことにできそう。

レイ・フレミングのマンションの風景は「絵」

レイ・フレミングのマンションの窓から見える風景は完璧に「絵」です。古い時代のテレビドラマや映画の笑えるワンシーンですね。フレミングが妻を殺害した後、窓ガラスを割って強盗の仕業に見せかけるシーンで、風景に自分の影が映っています。その他にもアカプルコの釣りのシーンも、もちろん海(背景)とガッツリ合成していますよね。

しかもこの風景は、最低でも3回出現。
ブログゲストさんから情報をいただき検証しました。レイ・フレミングのマンション、ネルソン・ヘイワードのホテルの風景は同じでした!さらに調査した結果、ケイ・フリーストンのオフィスの窓にも出現しています。

レイ・フレミングのマンションの風景1

ネルソン・ヘイワードのホテルの風景20

ケイ・フリーストンのオフィスの風景43

ジョーン・ハドソン邸は「スタール邸」

ジョーン・ハドソン邸(マップ)は、有名な「スタール邸」で自称「大部屋女優」のハドソンさんにしては、とてつもない豪邸です。3話「構想の死角」ケン・フランクリン邸、12話「アリバイのダイヤル」エリック・ワーグナー邸は、よく確認してみましたら、別の豪邸でした。

容疑者を張り込む刑事

これは2021年の新・気づきです。以前ゲストさんから「容疑者を張り込め(尾行すれ)ば、少なくとも第二殺人は起きない」とのご指摘をいただきました。確かに!その通りなんです。でも第1作では、刑事2人にジョーン・ハドソンを尾行させ、夜は自宅に張り込んでいました。

スペクタクル映画「十戒」

十戒のニナ・フォックスペクタクルとは「壮観」などの意味がありますが「十戒」はコロンボファンにとって正にスペクタクル!主役のモーセを川で拾って育てる王妃ビシア役にこの「ニナ・フォック」、モーセの敵役となるラメセス2世の妃ネフレテリ役に14話「偶像のレクイエム」の「アン・バクスター」、そして悪徳な総督バッカ役に18話「毒のある花」のラング社長「ビンセント・プライス」。少なくともこの3人が共演しているのです。

トミーの自供

アンソニー・ジェームストミー(アンソニー・ジェームス)の自供は決定的なシーンではないが、場面転換としては効果的です。コロンボが本件の捜査から外されるまでの経緯として、気分が入れ替わって気持ちよいですね。

タイトル文字など

注:2話「死者の身代金」は1話と比較し、今後シリーズ化されたデザインかなりに近いものになっていますが、文字は白色でエクステンデッド・ブラック(横長で極太)書体ではありません。なかなか気づきにくいことですが、新シリーズからは、文字が右揃えではなく、センター揃えに統一されています。

舞台版「殺人処方箋」について

本作(パイロット版「殺人処方箋」)より6年前の1962年に、トーマス・ミッチェル主演の舞台版「殺人処方箋」が上演されています。2021年の7月にひょんなことから、このお芝居の日本初上演を実際に見ることができました。詳しくは舞台版「殺人処方箋」をご覧ください。
監督:リチャード・アーヴィング
脚本:リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク
音楽:デイヴ・グルーシン

レイ・フレミング:ジーン・バリー(声:若山弦蔵)
ジョーン・ハドソン:キャサリン・ジャスティス(声:高島雅羅)
キャロル・フレミング:ニナ・フォック(声:谷育子)
バート:ウィリアム・ウィンダム(声:寺島幹夫)

加筆:2024年1月4日

刑事コロンボマップ

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