10話「黒のエチュード」

Etude in Black
1972[第2シーズン 10話]

オーケストラの指揮者を演じたジョン・カサヴェテス

オーケストラの指揮者アレックス・ベネディクト(ジョン・カサヴェテス)が愛人のピアニスト、ジェニファー・ウェルズを殺害。俳優カサヴェテスは、ピーターフォークの親友としても有名です。

完全犯罪とはほど遠い凡ミス

ジェニファーから離婚を迫られていたことが動機。ベネディクトはジェニファーの死を自殺に見せかけますが、現場で証拠品の「花」を落としてしまうという、推理作品で最低のミスを犯し、それが決め手となり逮捕されます。しかも、それを映像手法上で分かりやすく見せていて、最も重要なシーンを見逃させない工夫が施されています。おそらくこの作品、「決め手」を分かりやすく設定したことで、ドラマの側面を引き出しているのではないでしょうか。

サングラスに花が映るシーン

現場検証の最中のジェニファー宅にベネディクトが現れたとき、彼のサングラスに花が映るのは凄まじい演出です。4話「指輪の爪あと」に匹敵します(笑)花を落としたことに気づいたサイン。

一流の芸術家は色を好む?

一つ目は、芸術の世界で成功を収めているが、それに満足できず全てを失うリスクを知りつつ浮気に走るベネディクト。仕事での成功も、権力者の娘と結婚したことで得たもので、純粋な成功とは言い難い。しかも彼がイタリア系であることも興味深いです。
ベートーヴェンやブラームスが色を好んだエピソードを楽しそうに語りますが事実はそれ程とも思えず、彼は「自分が色を好んでいる」ことを暗に肯定しているようにも見えます。ベートーヴェンは確かに女性を好んだようです。ブラームスはもう少し堅物な印象。両者とも生涯独身を通していて、ベネディクトのような既婚者の浮気性とは結びつきません。

野外音楽ホール:ハリウッドボウルが舞台

二つ目は、犯人の職業がオーケストラの指揮者ということで、映像が華やかであること。そしてドラマの舞台がハリウッドボウルという美しい野外音楽ホールを中心に展開していること。このシチュエーションのパワーは大きいと思います。
→ハリウッドボウルの場所
コロンボは被害者のジェニファーを「美人で若さと才能にあふれる女性」と賞しているが、私にはそれほどは感じませんでした。

妻ジャニス役ブライス・ダナーが印象的

むしろ、妻のジャニス(ブライス・ダナー)に美しさを見ました。アメリカ人離れした容姿と気品が出ています。そして彼女が要所で見せた表情は抜群でした。

しかし、ベネディクトは愛人ジェニファーに惹かれます。それには「彼が才能を美と感じる」芸術家独特の視点があったからでしょう。妻のジャニスはそれを見抜いていました。

ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」の第4楽章

劇中でベネディクトが指揮する音楽の一つはベートーヴェン 交響曲第6番「田園」の第4楽章。この交響曲はベートーヴェンが唯一自分で「田園」と名付けた標題音楽的作品で、第4楽章は激しい雷雨・嵐の様子を表現しています。

モーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」第4楽章

もう1曲はモーツァルトのセレナーデ「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の第4楽章。この2曲の演奏会であればかなり「ベタ」な演奏曲目ですが、本作ではともに「最もポピュラーな楽章」ではない楽章を採用していて、興味深いです。ちなみに両曲とも「第1楽章が最も有名」。

ピアニストが活躍する曲は?何だったのか…

ピアニストのジェニファー・ウェルズがドタキャンした…コンサートの演奏曲目。ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」とモーツァルトのセレナーデ「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」はピアニスト不要の曲。では…ジェニファー・ウェルズが演奏するはずだった曲は何なのでしょう。ステージを見る限り、ピアノは準備されていないし。

コロンボ警部のピアノ演奏を馬鹿にするベネディクト

タイプライターの矛盾を発見したことはさすがコロンボだ!と感じました。(類似シーン:57話「犯罪警報」で用紙の指紋の不可解を発見した。)またこのシーンの頭でピアノを演奏する警部に対し「チョップスティックは久しぶりに見た」という主旨の台詞があって面白いです。チョップスティックとは「箸」の意味で、素人ピアニストが人差し指だけで弾く様子をさしています。

コロンボ警部の年収が判明

アレックス・ベネディクト宅での会話、コロンボ警部の年収は自身が「1万1000ドル」であると口にしています。1972年当時の1ドルを約305円としますと、約335万円。そして消費者物価指数などを加味すると…600万円弱。という感じでしょうか。同情するほどの薄給ではありません。容疑者の方々がとてもセレブですので、差を感じますが。
→コロンボ警部の年収

全編に流れる素敵な音楽

クラシック音楽を扱ったエピソードで、BGMもピアノ中心のクラシカルな曲でした。この「黒のエチュード」からスタートした「第2シーズン」。音楽監督を「ハル・ムーニー」が担当することになり、雰囲気が変わりました。私は大好きです。
→第2~第3シーズンの作品で使われるピアノBGM

あのビートルズもコンサートを行ったハリウッドボウル

そのシーンもハリウッドボウルで撮影されていますが、このハリウッドボウルは私の大好きなビートルズ(イギリスのロックバンド)が1964年と1965年にライブコンサートをしていて、その様子は「The Beatles At The Hollywood Bowl」として当時ビートルズ唯一の公式ライブアルバムとして発表されています。(CD化はされていません)
http://beatles.fact-web.com/article/31813479.html

ポールが演奏するクラブは、ロンドンの傘でも登場。

ブログゲストさんの発見です。容疑をかけられるトランペットのポールが演奏するクラブは、「ロンドンの傘」で蝋人形が置いてあった部屋と同じ場所です。階段をみたらわかります。ロンドンのはずなのにね(笑)
 
監督:ニコラス・コラサント
脚本:スティーブン・ボチコ
アレックス・ベネディクト:ジョン・カサヴェテス
ジャニス:ブライス・ダナー
ジェニファー・ウエルズ:アンジャネット・カマー
フィールディング夫人:マーナ・ロイ
加筆:2015年10月11日

“10話「黒のエチュード」” への49件の返信

  1. 初めまして。「黒のエチュード」何度も観ています。そのわりには、今頃気が付いたことなのですが、本番前、「ジェニファー・ウェールズがまだ来ないんだ。」と言いながら楽屋(?)に入ってくる男性は、「秒読みの殺人」のウォルター役のジェームズ・マクイーチンですね。両作品とも何度も見ているのに、私はどうして気が付かなかったのでしょう。。。吹き替えの方は、おそらく別人の方の声のように感じました。これからも、お邪魔させていただきます。

  2. 犯人の奥様役の女優さん、Xファイルの映画版でFBIの査問会で遅刻したモルダーをバッサリ切り捨てて退出させるキリッとしたお姉さま役で出ておられますね
    お歳を召されてもとてもキレイです

  3. 黒のエチュードは、舞台も出演者も(犯人の指揮者も、指揮者の奥さんも)美しく洗練されいている。あの美しい奥さんは、グウィネス・パルトロウの実のお母さまでいらっしゃる、あぁすごいなぁ。
    「人間はさ、寿命まで生きるべきだよ」というコロンボのセリフが心に刻み込まれ、
    生きることが辛いと感じるときでも、私は自分を鼓舞してなんとかやってこられたのです。だからこの作品にも、とても感謝しています。

  4. はじめまして、ブログ楽しく拝見しております。
    本作には駄作だという評価もありますが、コンサートシーンのクロス・カッティング(複数の場面を同時進行させ、緊迫感を盛り上げる演出)や、ハリウッド・ボウルでの犯人とコロンボの丁々発止のやり取りなど、見所はかなり多く、特に犯人の狡猾さや小心さを的確に表現したジョン・カサヴェテスの演技は必見だと思います。
    犯行現場にコサージュの花を落とす初歩的ミスを批判する意見が多いようですが、犯人は捜査陣に気付かれずに、いったんは証拠の花を回収できているわけでして、そこは織り込み済みのサスペンス要素として演出されています。スパイ大作戦で、作戦遂行中に邪魔が入る演出のようなものでしょう。
    むしろ、無事回収したはずの花が、再び思わぬ形で結局犯人の首を絞める点が面白いわけでしょう。花の有無を確認する方法も、今は当たり前でも、当時はまだ珍しかった(記録メディアが高価なため、消去されるのが普通だった)もので、時代の経過によって古びてしまったのは残念なことですが、当時は意外性をうまく印象づけることができていたのではないかと思います。
    むしろ本当に残念なのは、コロンボが犯人の邸宅を訪問するシーンだけ、ジョン・カサヴェテスの頭髪が短いことです。あれだけは、何か事情があったのだとしか思えません。
    そんなに雑な作品ではなく、むしろ演技や演出に非常に見所の多い、印象的な1本だと思います。
    ちなみに、調べてみたところ、コロンボがたどたどしく弾いている曲は、「チョップスティック」というれっきとした曲名の、19世紀に作曲された子供用の練習曲だそうです。犯人のベネディクトも子供の頃に弾いていた、懐かしいね…というニュアンスが入っており、一方的にコロンボのピアノの腕前を馬鹿にしているだけ、という訳ではなさそうです。

    1. 工事ケロンボさん、こんにちは。
      「チョップスティック」のお話は、勉強になりました!
      後日、本文に加筆いたします、ありがとうございます。

  5. 愛犬の登場作品です。あたかもコロンボが予防接種を受けるかと見せておいて、実は獣医であった診療室でのテレビが重要な役目を果たします。作品的にはアレックスがカーネーションを現場で拾うところをコロンボに見られた時点で勝負がついてしまったのは残念でした。そんな中で、夫を愛しながら、疑念を払い切れないジャニス役を好演したブライス・ダナーの複雑な表情と青い目が印象的でした。愛人の電話番号を暗記していた夫を見た瞬間に見せた当惑が、結局は最後のシーンでアレックスの運命を決定づける証言に結びついたように見えました。

  6. こんにちは。
    コロンボを見た時にいつもお世話になってます。
    正妻のブライスダナーさんはグゥイネスバルトローのお母さんです。
    若い時のお母さんはやっぱり似てますね。

  7. 確かに1970年代初頭と言えば、日本ではやっとカラーテレビが普及し出した時代。一回放送されれば、それで終わり。今のように、Blu-ray、DVDで、家庭でも繰り返し観られる時代が来るなんて制作者側も想定していなかったでしょう。

    刑事コロンボは、いま見てもあまり古臭さを感じない、むしろ今よりもアメリカの豊かさを感じられてしまうのは、驚きです。

  8. 確かにこの話はミステリー的にはかなり弱いと思いますけど、
    シーズン1が人気があったとは今後長寿シリーズになるとは限らなかったので、
    この話が刑事コロンボの超入門編みたいな感じなのは悪くない趣向なのかなと思います。
    (今までの話じゃ忘れたフリして拾うみたいな演出してたのだから物足りないのは分かる)
    元々の脚本の様に奥さんが素朴で美形ではない設定だったので本当に単純な話を狙ってたみたいですしね。

  9. 犯人のベネディクトが、コサージュを落としたことに気がつき、殺害現場に戻る場面について。
    今拾いましたと言わんばかりに胸にコサージュをつけ直して、コロンボに見つかってしまうシーンは、思わず笑ってしまいました。

    魅力的な犯人、美しくて健気な妻、ベートーベン、モーツァルト、ショパンの楽曲、せっかくいい要素が沢山あるのに、ちょっと残念です。

  10. ゴッドファーザーにおけるヴィトー・コンティ氏の登場シーンはまさに「冒頭」ですね。
    ドン・コルレオーネに対し娘を暴行された元カレに復讐を依頼するシーンです。
    既に御存じかと思いますが念の為。尚、1st season TV放送当時、小生は小学1年生でした。
    土曜の21:00、家族全員で食い入る様に見てましたね。Best of コロンボは昔も今も
    「分かれのワイン」「祝砲の挽歌」で割れてます。(;’∀’)*人気投票に「白鳥の唄」が
    出てこないのは?ですねぇ。。

  11.  ぼろんこさん初めまして。蓑笠亭主人鋤谷九郎(さりゅうていしゅじん すきやくろう)と申します。「刑事コロンボ」の素敵なブログ、楽しく拝読させていただいております。私もコロンボファンです。しかも、少し前にヤフオクで出品されていましたデアゴスティーニの新旧シリーズ全69巻+2巻を落札し、天にも昇る気分の今日この頃です。それにしても、「刑事コロンボ」は新旧共に面白いですね。(新シリーズには毀誉褒貶があるようですが、個人的には気に入っています。)
     わたしは、高校で英語を教えるという職業柄、英語音声、英語字幕で鑑賞し、乏しい英語力を何とかしようとしています。それゆえ、このDVDシリーズは、趣味と実益を満たしてくれる「宝物」です。
     そんな鑑賞をしていて気づいたことが。額賀子氏の翻訳には、誤訳が散見されるのです。
     この「黒のエチュード」で、コロンボの相棒となる「ドッグ」が初登場すると思うのですが、吹き替え版では「池でおぼれていた」と言っています。しかしこれは完全な誤訳です。オリジナルでは「”pound”で見つけた」となっているのです。”pound”とは、野良犬や、迷い犬の収容所のことで、決して池ではないのです。どうしてこのような訳にしてしまったのか理解に苦しみます。(やっしーさんが感じられたように、爆笑を誘おうとしたのでしょうか…?)
     また、「美食の報酬」では、オズ氏がコロンボに向かって「刑事というと、警視庁の方ですか」なんて間抜けなことを言っていますが、これは「警部補」と「中尉」の意味を持つ“lieutenant”をうまく訳しきれなかったからにほかなりません。
     額賀氏は「うちのカミさん」というヒットを飛ばした翻訳家だけに、これらの誤訳は惜しいですね。

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