45話「策謀の結末」

The Conspirators / 1978

世界の政治情勢が背景

事件の背景が大げさで、33話「ハッサン・サラーの反逆」34話「仮面の男」などと同様の味を持った作品だったと思います。むしろ、それら以上に「世界情勢」と「殺人動機」が強くからんだ作品でしょう。このアイルランド革命派のモデルになっているのはIRA(アイルランド共和軍)だと思われ、アイルランド全島の独立共和国化をめざすカトリック系の組織です。

とても人気が高い作品

初見当時に私が評した以上に人気の高い作品だとわかってきました。犯人が詩人ということで、その台詞や歌声が独特の上品さを醸しています。またアイリッシュの郷愁を感じるBGMも雰囲気を高めています。犯人が決定的な悪人ではない…というのも、理由にあがるでしょう。ジョー・デブリンを演じた「クライヴ・レヴィル」はとても魅力的で、彼の功績も大きいと感じます。

しかしながら、間の悪い犯人…

アイルランド革命派組織の活動家で詩人のジョー・デブリンは、犯行後にビンセント・ポーリーを殺害した現場に現れます。そこでコロンボと鉢合わせに。‥うぅ、これはイケません。何をしに来たのか?ほぼ自爆行為と言って良いでしょう。コロンボ警部は鋭く突っ込んで欲しかったです。しかもその部屋で一緒に推理ごっこしてますし。(笑)この回ではコロンボが行く先々で、デブリンと会ってしまうのも可笑しいです。

酒は身を滅ぼす…

クライヴ・レヴィルさらにデブリンはアイリッシュウイスキーの瓶に、傷をつける癖があったのですが、あんなに何回もコロンボ警部と酒を酌み交わし、その度にウイスキーの瓶に傷をつけていては…まるで「自分が犯人ですよ~」と、証拠を大量生産しているようなものですね。酒好きが命取り…という結末なので、それも含み楽しんだ方が良いかもしれません。

ペック夫人を発見!

ジャネット・ノーラン17話「二つの顔」でクリフォード邸の家政婦ペック夫人を好演したジャネット・ノーランが、オコンネル財閥の女王役で登場。髪の色が違うので、別人みたいな印象でした。

吹き替えが演出する強烈キャラ「ジェンセン」

L.Q.ジョーンズ銃の密売人の役で登場するチャールズ・ブロンソンに似た俳優L.Q.ジョーンズは強烈!。声優は大泉滉さんで、この人の声を使っちゃったら、俳優が誰でも大泉滉に見えてきます。(小池版)
また、この時の銃の包みは、広げる時は無造作な感じで、隠してあったように四角くきっちり包める気がしません笑

ビンセント・ポーリーも素敵

アルバート・ポールセンビンセント・ポーリーを演じたアルバート・ポールセンも良かった。調べてみたらやはり…凄い人でした。コンバットをはじめ、スパイ大作戦、0011ナポレオン・ソロ、刑事コジャック、チャーリーズ・エンジェル、ナイトライダーなど、60年代〜80年代に活躍している名優でした。

2種類の吹き替えが存在

1979年にNHKで放送された際は小池版。1987年の日本テレビでは小池版の紛失が原因で、再録音された石田版で放送されました。現在はNHKで小池版、DVDやAXNミステリーで石田版が見られるようです。このブログ記事は、NHK-BS Hiで2010年6月11日に放送された「小池版」を見て書かれています。
NHK:コロンボ:小池朝雄、デブリン:納谷悟朗、ジェンセン:大泉滉★コレ
DVD:コロンボ:石田太郎、デブリン:家弓家正、ジェンセン:立木文彦

タグボートを見つけるシーン

この作品は何度も見るうちに、どんどん好きにります。やはりパトリック・ウィリアムズによる音楽が良いのかな。それと、車を走らせ橋を渡って、タグボートを見つけるシーンも素敵です。コイン双眼鏡でタグボートの旗を覗いて、オコンネルの船だと確信しますが、この時社旗はたわんでいてはっきりしません。それでも緑と黄色の色で、それだと確信するシーン。絵では社旗を映さずコロンボの演技のみで表現していて、この回では圧巻のシーンだと感じます。

銃の密売人は元警官!

ジョン・マッキャンブログ読者さんからの情報で…倉庫で出会う銃の密売人「ブランドン」は、19話「別れのワイン」に登場する警官と同じ俳優さんジョン・マッキャン[John McCann]でした。さすが俳優さん、随分雰囲気が違って見えますね。

チャンドラー書店の女性店員

デボラ・ホワイトデブリンがサイン会を催したチャンドラー書店。お話の途中でコロンボ警部がここを訪問する時に、相手をしてくれた女性店員アンジェラは女優デボラ・ホワイト。快活で明るい感じの女性ですね。

IRAについて

このアンジェラは「シン・フェイン」は「アイルランド過激派」の合言葉だと説明しています。ちなみにデブリンは「アイルランド革命派」と自称しています。少なくとも日本語版では一度も「IRA」という固有名詞は登場しないのに、WikiやNHK公式サイトでさえ「IRA」だと断言していて、今後調べてみたい点でもあります。

策謀の結末のロサンゼルス港

監督:レオ・ペン
脚本:ハワード・バーク
音楽:パトリック・ウィリアムズ

ジョー・デブリン:クライヴ・レヴィル(声:納谷悟朗)
ケイト・オコンネル:ジャネット・ノーラン(声:麻生美代子
ビンセント・ポーリー:アルバート・ポールセン(声:灰地順)
ジャンセン:L.Q.ジョーンズ
ジョージ・オコンネル:バーナード・ベランス
ケリー・マローン:マイケル・ホルトン
アンジェラ:デボラ・ホワイト
ブランドン:ジョン・マッキャン
リーチ:ドン・ホワイト
キャロル・ヘミングウェイ:キャロル・ヘミングウェイ
牽引車運転手:ジョニー・シルバー
パーティ客:ミッキー・ゴールデン
パーティ客:キャサリン・ジャンセン
船長:ショーン・マクロイ

加筆:2024年8月29日

“45話「策謀の結末」” への139件の返信

  1. The Conspirators 陰謀者たち
    陰謀をめぐらす詩人、武器商人、アイルランド系コングロマリットの上層部。
    邦題「策謀の結末」忘れてました!
    他の人のように「ああ、ダイヤの指輪でボトルに傷つけるのが決め手の一つになる話ね」
    「「指輪の傷跡」ね」と勝手に間違って覚えていました。
    コロンボの原題はシャレや他のミステリーのタイトルをもじっているのにこれはストレートですね。

  2.  ちょこちょこ私が紹介している製作舞台裏本”Shooting Columbo”は、「策謀の結末」の項では事実上2つの情報を短く書いているにすぎません。
     ひとつ目はちょっと驚くもので、このストーリーはもともとコロンボとは関係ない全く別のテレビドラマのパイロット版のために想定されたものだったとのこと。デブリンの人物像や犯行などは基本的に同じで、プロデューサーのリチャード・アラン・シモンズが脚本家のハワード・バーク(「祝砲の挽歌」)に「コロンボ」として書き直すよう依頼したそうです。
     それが一体どんなドラマで最終的にどうなったのかについては書かれていませんでしたが、いずれにせよ上記が正しければ、製作陣は最初から「コロンボでアイルランド問題を取り上げる」という設定や挑戦意識?を持っていたわけではなかったことになりそうです。
     2つ目の情報は細かいもので、パイロット用のストーリーに出てくるウィスキーは実在するTullamore DEW(そのスローガンは“Give every man his Dew”)でしたが、NBCはそれだとまずかろうと考え、架空のFull’s Irish Dew(スローガンは“Let each man be paid in Full”)に変えられました。dewは「露、滴」ですが「ウィスキー」も指し、また同じ発音の due (give~his dueで「正当に評価する、報いを与える」)にかけていますね。架空のウィスキーはfullをうまく使ってスローガンにオリジナルと似た意味を持たせているようです。「人にはふさわしき贈り物を」は、「裏切り者には相応の報い(死)を」というウラの意味も伝えるうまい訳だと思います。なお英語ついでの余談ですが、”The Columbophile”という海外のファンサイトの運営者(両親がベルファスト生まれ)にいわせると、デブリンを演じたクライヴ・レヴィル(ニュージーランド生まれ)のアイルランド・アクセントは「なっちゃいない」そうです。
     アイルランド問題を取り上げることについて、何かの議論なり配慮なり工夫なりが製作陣になかったのかに興味がありますが、上記の本ではこのあと「ピーター・フォークの契約は切れたものの、これまでも繰り返しあったことで、フォークは新たなシーズンの声がかかるのを待ったが、今回ついにそれは来なかった」という”ジ・エンド”話が続き、そうした記述はまったくなく、肩透かしを食らった感がありました。もしかしたら関係者も、この問題にかかわるような記録や証言は残すことを避けたのだろうかとも想像してしまいました。
     私はアイルランド問題(およびリメリック)に詳しくなく、そうした立場で「策謀の結末」を見て、大傑作とは思わないまでも楽しめる作品だととらえていますが、この問題に詳しい人はまた違った印象を持つのかもしれませんね。同じく国際政治問題を扱った「ハッサン・サラーの反逆」について私は、最初の放送時も10代なりにそれなりの知恵がついていたのか、「中東への紋切型な見方とアメリカの優越感が伝える残念な作品」と思いましたが、のちに仕事で実際にこの地域に少し関わったこともあり、いまだに「ワースト1エピソード」の感が拭えません。

  3. 観れば観るほど旧シリーズ掉尾を飾るにふさわしい娯楽大作ですが、去年の私の感想が同じ人物とは思えない程いい事書いているのでやりにくい(自画自賛)。
    さて、世相だけでなく、政治的背景の濃い娯楽作品も当時の時代背景を感じていないと今の世代には伝わりにくい所があるかもしれませんね。本編にはどこにもIRAとは言っていませんが、IRAがモデルでしかありえないんですよね。但し、それをあるファミリーの暗躍のエピソードに仕立てたところが米国ドラマらしいと言えるかもしれない。
    デブリンは酒を愛し過ぎたのが失敗という倫理教訓ドラマ(笑)ですが、酒やたばこという悪癖がなければ著名な抵抗派詩人にもなれなかったことでしょう(と分かり切ったように決めつけておきましょう)。
    「政治が我らに嘘をつかせるのだ」と悪びれないデブリンは、少年時代から修羅場を抜けているのでここで改めて自分の罪を暴かれ裁かれても大して悔しくもない、むしろ悔しいのは、自分のことより同志達に兵器を供与できなかった事の方でしょう。
    昨今の政治的時代背景の余談で言えば、アイルランド紛争は日本には縁があまりないと思いますが、例えば中東問題に関しては、元々日本人はパレスチナに同情的、イスラエルに批判的というのは今時の日本人には伝わるかなあ。SNSでもツイッター以前、ブログ全盛期には、激化したイスラエルのパレスチナ弾圧に、多くのブロガーがイスラエル批判・抗議に連帯、抗議文を一斉にアップしたことがありました(私もやった)。

    1.  プログレッシブ英和中辞典(第4版)の解説によりますと、
       本作に出てくる「Sinn Fein」という言葉は、[名]シンフェイン運動(アイルランド独立運動);その党(IRAの政治組織).とありますので、2021年11月21日 9:59 AMに投稿された「カンタベリー」様のコメントの通りだと思います。
       私も、『刑事コロンボ』で、国際政治問題的な話題が出てくると、いつも微妙だなあと感じてしまいます。
       海外サイトの、あるイギリス人のハンドルネームでのコメントに、次のような興味深い話がありました。
      「・・・・・・『刑事コロンボ』の熱心なファンである私は、このエピソードをイギリスのテレビで見たのは、早くても1990年代後半から2000年代初頭までだったと記憶しています。1970年代にBBCがこのエピソードを放映可能と判断したとは到底思えません。このエピソードが英国で最初に放送されたのはいつなのか、今興味があります。
      (中略)
       ふと思い出したのですが、『刑事コロンボ』旧シリーズは1970年代は常にITV(イギリスの放送局)でも放送されていました。(中略)
       ITVも、1970年代には45話「策謀の結末」を放映しないことにしていたのかもしれません。どなたか、確かなことをご存じないでしょうか?」

  4. ぼろんこさん
    ブログ拝見しております。
    春ごろから再び刑事コロンボの放送が始まり、懐かしく観ています。コロンボとポアロ、ホームズ、順番にぐるぐる回っているような。

    策謀の結末も、テンポ良い、コロンボのスマートさが際立つ回でしたね。
    1970年代は、世間でのテロというと、IRAのことが、子供だった私でも印象に残っているぐらいでしたが、その後和解されたとかで、今は鎮静化しているようですね。イギリスの赤い二階建てバスの爆破事件は、その関係だったでしょうか。政治のことは無知でよくわかりませんでしたが、いろいろ考えさせられるお話だった記憶があります。
    あの頃、コロンボのように、細かいところに注意して観察することの重要性を、子供心に学んだ気がします。(今の仕事にも役立っているような)
    これからも、楽しみにしています。

  5. シリーズ最後の一品。北アイルランド闘争の歴史、アイルランド系アメリカ人コミュニティーの祖国への想いが分からないとよく分からない作品です。武器仲買人のあくどい商売に制裁を加えたのでしょう。動機はよく分かりますがその後の調達が大変でしたね。
      シリーズ最後に国際問題を採り上げスケール感を出しています。最後に一斉に船を追いかけるヘリコプターや沿岸警備隊の勇姿には目を見張りました。ただコロンボは粛々といつもの捜査を行い犯人を追い詰めていく。所轄の警察官として日々やるべきことをやる。
    独立運動を支援する犯人にたとえ同情?していても自分の職務は果たす。
     目の前にある仕事をきちんとこなしていくのが職務というもの。コロンボはCIAの妨害が入ろうがお偉いさんに左遷されそうになりながらも「やるべき仕事」をやってきた。
     当時浪人中だった私に「仕事とは何か?」を教えてくれたドラマでもありました。
    新シリーズがどう変わるか楽しみです。

    1. T.Kさま誤字は修正済みです。コロンボは刑事という仕事を心から愛している。ということですよね。それは本当に見習いたいことだと思います。

      1. この回の撮影側ミスを発見してしまいました。
        コロンボ警部が ラスト、デブリンに
        ボトルのひっかき傷を示すシーン。
        ボトル紹介が
        1ポーリーさんの側にあった、2アイリッシュパブ(バー)のやつ、3二人でしこたま飲んだバーのやつ。
        鑑識写真のは、1アイリッシュパブのやつ、2last night に飲んだバーの、3ポーリーさんの側にあったやつ。
        と 違っちゃってます。

        字幕原語版と石田吹き替え版、両方確認しましたが
        コロンボは番号は言ってないので、小道具係のミスかピーターフォーク氏のミスになるのでしょうか。

        証拠に関わることなので、ドラマ内だと 「鑑識の杜撰な管理」てことで、裁判だと 「証拠にならん!」とか被疑者側弁護士に突っ込まれてしまいそうで
        見る度にハラハラしてしまいます。

        それはそうとデブリン役者さん、本当に魅力的ですね。
        2人で パブやバーでダーツやらなんやらに興じる姿は
        立場上の関係を越えて 楽しんでる様子もあり、「策謀の結末」の味わい深さにもなっていると思い
        ます。

  6.  本作が、旧シリーズ最終回に相応しい回だと信じて疑わないのは、「善とは何か、悪とは何か」という人間の究極の根源まで突き詰めて考えさせられるからです。
    There is no dark side of the moon really. Matter of fact it’s all dark.
    (本当は月の暗い側なんて存在しない。実のところ、すべてが闇そのものだから)
    「善人なほもって往生をとぐ、いはんや悪人をや」
     鑑賞していて、本作に関係ない、そんな過去の名言の数々が思いだされては消え、思いだされては消えするレベルの作品は、「刑事コロンボ」でなくても、傑作中の傑作だというのが、私の価値観です。

  7. Sinn Féin (シンフェイン)はアイルランドの土着語。ケルト語ですね。
    アイルランドは英語を使うことを強制されたので、ケルト語を使うこと自体が、意思の表明になります。
    IRAの政治部門がSinn Féin で、Sinn Féin 党を名乗って、イギリス議会に議席を持っています。女王に忠誠を誓わないので、イギリス議会に登院はしません。

  8. 旧作の最後を飾る最高傑作です。小池、石田それぞれの吹き替え版と原語版を合わせて十回前後見ました。私は何と言われてもJoe Devlinが大好きです。見方によっては極悪人だという意味はよく分かりますが、それでもなぜ好きかといえば、やはり往生際の潔さです。銭形平次などの時代劇に出てくるような「ジタバタするねい!」「観念しやがれ!」というのが本来の日本人の感性じゃないでしょうか。それが乏しくなったことが寂しくてならない昨今ですが、満開の桜よりもその散り際を愛でる日本古来の美学にしっくりと添うものだと思います。原語版では組織構成員の青年に向けたセリフ、You’re credit to your mother. などと日常的な米語とも趣の異なった品格を感じるものがあります。逮捕が確定し、通常なら壁に隠れていた警官が飛び出てくるシーンで、徐に「一杯やらないかね」と言われてコロンボが応じるシーンもこの作品だけかと思います。強いて言えば「別れのワイン」がそれに近いでしょうか。ストーリーより演出、ミステリーよりも抒情詩ととらえたほうが楽しめる作品ですね。

    1. 水上さま>
      なるほど私も「往生際の潔さ」も、コロンボ作品の好きな点です。
      ホリスター将軍の往生際も良いですよ。

      1. はい、ぼろんこ様、もちろん存じております。
        確か「そこまで言うからには、もう弾道検査も済んでいるんだろうな」というのが最後のセリフでしたよね。俳優の名前は忘れましたが、ローマの休日のカメラマン役だそうですね。独特の渋みがあり、吹き替え版の声優もぴったりはまっていました。さすが誇り高き将軍、二人の警官が両脇から腕を取ろうとすると、すかさずコロンボが「おい、その必要はないよ」と言いました。印象的なシーンでしたね。個人的にはコロンボの「勇気があるですって?ありすぎるんだ!とても普通とは思えない。あんたやあたしの100倍もあるんだ」というセリフが脳裡に焼き付いています。

      2. 追伸:私もお返しに一つお薦めします。きっとご存じでしょうけれど。それは「白鳥の歌」という作品です。これのラストは感動しますね。

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